- 接合・溶接技術Q&A / Q08-02-17
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Q鉛フリーはんだはSnペストを起こすでしょうか?また,Snペストを起こすとするとどのような条件でしょうか?
Snは通常,常温,常圧下ではβ-Sn(白色すず)と呼ばれる正方晶の結晶構造を持ちます。ところが,低温(13 ℃以下)では同素変態を起こし,α-Sn(灰色すず)と呼ばれる立方結晶構造(ダイヤモンド構造)となります。このとき体積膨張により,ぼろぼろになることや変態部の外観からすずペストと呼ばれます。しかし,この変態速度が遅いため,実際に変態がみられるのは,零下で長期保存された場合に限られています。本現象に関しては俗説が多く,信頼できる文献も少ないのですが,間違いないのは,すず(鉛フリーはんだ,はんだ)の純度が大きな影響を持っていることです。
単純には,高純度すず(鉛フリーはんだ,はんだ)ほど変態速度が速い,すなわち,ぼろぼろになる可能性が高くなります。不純物として適量のSb, Bi, Pb等を含んでいると変態速度は急激に遅くなります。
素材が加工状態や表面に傷があると変態は加速されるといえます1)。また,変態したα-Snに接触すると接種(inoculation)という効果により急速に変態が伝染(拡大)します。
保持温度は-20℃~-35℃あたりでの変態速度が最も速くなるようですから,このあたりの温度での長期保管(数週間)は避けることがいいでしょう。もちろん変態速度は素材の純度や負荷応力状態(表面傷も含む)に依存しますので,発生までの時間はこれらの要因と温度とで決まります。
ただ,通常純度の鉛フリーはんだでは簡単に起こるようには思えません。心配な場合はSb, Biなどを添加しておくのが有効です。
参考文献
1) Y. J. Joo and T. Takemoto: Transformation of Sn-Cu Alloy from White Tin to Gray Tin, Materials Letters,56(2002),No. 5, November, 793-796.〈竹本 正 / 2012年[新規]〉