接合・溶接技術Q&A / Q09-01-04

Q造船外業工程におけるガスシールドアーク溶接の防風対策はどのようにしたらよいでしょうか。

ガスシールドアーク溶接は,その名の通り,シールドガスによって金属溶融池を酸化・窒化から保護し,健全な溶接部を得るもので,他の溶接法に比べて特に風の影響を受けやすい。シールド不足,あるいはシールド不完全の場合,最も顕著に起こるのは,ブローホールやピット等の溶接欠陥である。また,外観的欠陥ではなくても,過剰窒素の混入で溶接金属の脆化の恐れも高い。

造船で最もよく使われる炭酸ガスによるシールドや混合ガス(20%CO2+80%Ar)による場合,風速2m/secまでは,ほとんど影響がないが,それを超えると通常の溶接条件ではブローホールが発生し,不具合を生じることが,実験的,経験上分かっている。

したがって,ガスシールドアーク溶接では風を配慮した作業環境の整備と防風対策が必要である。

(1) 基本的な考え方

① 風の影響を受けにくい作業場の設営をする。

② 溶接作業の屋内化をできるだけ図る。

③ 換気設備の設置は,溶接に悪影響の出ないように,設置場所,換気容量,給排気の方向などを決めなければならない。

④ 防風壁,衝立,防風治具等の活用を図る。

⑤ 溶接の自動化を図り,溶接部の遮光,防風カバーとヒューム回収装置を組み込んだ機械とする。

(2) 具体的な施工上の対策

表1に風速の目安を示す。顔に風を感じるようになったら,防風対策が必要である。

① 適性ガス流量の設定

シールドガスの流量は,溶接条件,特に溶接電流とワイヤ突出し長さなどから決まる適正な範囲があるが,ある程度の範囲内でガス流量を増加させることもある。作業場所によっても影響が異なるが,その一例を表2に示す。

② 適正なノズル高さを守る

母材とノズルの先端との距離は通常条件では20mm位がよく,標準ノズル(先端径18mm)ではガス流量25/min以上で,先細ノズル(先端径12mm)ではガス流量10/min以上で,ブローホールも発生しないよい溶接ができる。なお,ノズル内部に付着したスパッタは常に除去し,シールドガスを整流に保たねばならない。

③ 防風箱,防風衝立などの使用

図1に示すような風よけが,上甲板等の吹き曝しの作業場所ではよく使われている。衝立を風上側に立て,防風箱の中にトーチを差し込んで溶接する。

外板のブロック継手などでは,移動式足場やゴンドラ足場全体をオーニングで包み,溶接部および作業者の防風を行っている例も多い。

④ ノズルの形状で使い分け

図2に示すような先細ノズルを用いてシールドガスの運動量を増し,風の影響を減らすものである。

ただし,この場合大きな溶融池を作る大電流溶接には使えない。また先細ノズルを用いて,ガス流量を増すと(例えば30/min超)ガス気流が乱流になり,かえってブローホールの大量発生を見ることがあるので注意が必要である。

⑤ 専用の耐風ノズルなどの使用

風速5m/sec以下でCO2ガス流量100~120/minで溶接施工可能な『耐風ノズル』や,大電流自動溶接機に採用される『二重ノズル』等がある。

これらの場合,あらかじめ装置に取り付けられた防風治具と組み合わせて使用されることが好ましい。

(3) シールドガスの使用量について

造船溶接では,内業ステージで20~25/min,外業ステージで25~30/minを基準流量としている所が多い。しかし,外業溶接や特殊な大電流自動溶接では更に多くのガスを使っている。シールドガスの使用量の目安としては溶接ワイヤの重量との対比で算定することができる。例えば,炭酸ガスアーク溶接で,1.2mm径のフラックス入りワイヤを用いる場合,平均溶接電流が240Aとして,その時の溶着速度を約70g/minとする。

一方,この溶接条件でシールドガスの流量は25/minとすると,それはmol比計算から49.1g/minとなり,ガス/ワイヤ重量比はこの場合,49.1/70=0.70となる。平均溶接電流を180A,溶着速度40g/min,ガス流量20/min(39.3g/min)とすると,その比は39.3/40=0.98となる。このように標準施工条件での理論的ガス使用量が求めることができる。

日本の主要造船所20数社のガス/ワイヤ重量比のデータは,非常にばらついているが,2007年の実績では,平均で1.53となっている。この値は,上述の計算値の2倍近い数字となっている。これは,計算値にアークの出ていないガスブロー時間が入っていないこと,実際は基準流量より常に多い目の流量で溶接していることもあるが,最も大きい原因は,仮設ガス配管の継目からの漏洩と考えられており,定期点検と保全が重要である。また,防風対策をきちんと行い,基準流量を守ることも必要である。

参考文献

1)(社)日本溶接協会 船舶・鉄構海洋構造物部会溶接施工委員会編及び発行(会員限):溶接施工“続Q&A”―現場ですぐ使えるノウハウ集続編―,第2-4項,pp.38-42,(1993)

〈齋藤 忠雄 / 2012年改訂[字句修正]〉

このQ&Aの分類

ガスシールドアーク溶接

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防風対策製品名:造船ブロック継手材料:軟鋼・高張力鋼施工法:(MAG/CO2)ガスシールドアーク溶接

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