- 接合・溶接技術Q&A / Q10-01-02
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Q工場内の各種装置・設備の保全ならびに修理を担当している者ですが,稼動中の装置が故障した場合,例えば,装置のシャフトが何らかの理由で折れた場合など,緊急に直す必要があります。この場合,溶接で直したいのですが,装置部品材料の成分も判らず,また,予熱ができない場合が多々あります。このように,成分も判らぬ各種装置部品を予熱なしで溶接補修できる適当な溶接材料があれば教えて下さい。
一般に29-9(29Cr-9Ni)と呼ばれているステンレス鋼溶接棒を使用すると,炭素鋼,工具鋼,合金鋼などの溶接ができる。
29-9ステンレス鋼とは,JIS Z3221 ES312に該当する溶接棒で,規格成分ならびに溶接金属の機械的性質は表1に示すとおりである。
ES312溶接棒は,共金系の材料の溶接に使用される溶接棒である,溶着金属は約30%のフェライトを含むオーステナイト系ステンレス鋼のため,各種炭素鋼,ばね鋼,工具鋼,各種合金鋼の溶接ならびに各種異材溶接に使用しても,母材からCやNiの巻き上げによる溶接金属の割れ発生もなく,強度の非常に優れた信頼性の高い溶接ができる。
したがって,ES312溶接棒は機械装置部品の補修溶接にもよく使用される。
外国製品で,鋼であればなんでも溶接できるといううたい文句で販売されている溶接棒があるが,これらの溶接棒の基本成分はES312で,それに若干のMoなどを添加した溶接棒である。
溶接上の注意事項は下記の通りである。
① 溶接部ならび周辺に付着している錆,ゴミ,オイル等は完全に除去し,清浄にする。
② 折損部断面の大きい場合は,適当な開先を取るとともに開先面にバタリングを行う。
③ 溶接は,交流または直流(棒プラス)で溶接する。
④ 母材への溶込みを少なくするために,溶接電流は低めにするとともに,ウイビングは避け,ストリンガービードで溶接する。
⑤ ほとんどの場合は予熱は不要であるが,冬場の場合は50℃以上,割れ感受性の非常に高い高合金工具鋼の溶接の場合は150~200℃の予熱を行う。
⑥ 各ビードごとに,溶接部の内部応力を軽減するために,ピーニングを必ず行う。
⑦ クレータ部に割れが発生した場合は,必ずグラインダーなどで割れを除去する。
〈東 雅弘 / 2012年改訂[規格]〉