- 接合・溶接技術Q&A / Q10-01-06
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Qプレス金型や鋳造金型の摩耗部を現場で補修する必要が結構あるのですが,残念ながら現場には金型の肉盛補修できる人間がいませんので,外注依頼しているのが現況です。外注はいいのですが,補修日数の関係で,どうしても現場で肉盛補修をせざるをえない時があります。一般に,金型の肉盛溶接は非常に難しく,簡単には肉盛補修はできないと聞いているのですが,この溶接技術の進んでいる昨今,何か簡単に金型の肉盛補修ができる手段ならびに材料があれば教えて下さい。
確かに金型の溶接は,軟鋼材等の溶接に比べて非常に難しい問題点を含んでいる。
それは鋼系材の主流を占めているのが工具鋼であり,工具鋼は周知のごとく非常に焼きの入りやすい材料である。焼きが入りやすいということは,溶接をすると割れやすいということにつながる。
つまり,工具鋼の性能と溶接性(溶接がしやすいか否かの性質)は相反するものがある。
したがって,工具鋼の性能がよいほど溶接は困難になる。
また,鋳鉄はもっとも溶接が困難な金属材料である。
このように金型材として用いられている材料は溶接性の悪いものが主流を占めているので,金型の溶接が困難なのは当然のことと言える。したがって,金型の溶接は,金型材の性質などを熟知した溶接士が行っている。
以前は,金型の溶接は被覆アーク溶接法が主流であったが,最近はティグ溶接法による金型の溶接が一般的になりつつある。
しかし,金型溶接の熟練者が年々少なくなってきたので,より簡便に熟練度を必要としない肉盛溶接法の要求が多くなってきている。
その要求に応えられる溶接法として,ハンディタイプのプラズマ粉体肉盛溶接法がある。
ハンディタイプのプラズマ粉体肉盛溶接法は,ティグ溶接感覚で容易にアーク発生ができるとともに,粉体材料がトーチから出てくるので,容易に肉盛溶接ができる。
特長を以下に示す。
① ティグ溶接のようにワイヤを挿入する操作がなく,片手だけの操作で溶接ができるので,従来のような熟練度をほとんど必要とせず,比較的容易に,誰でもすぐに肉盛溶接がきるようになる。
② 立向姿勢での肉盛溶接も容易にできるので,金型のような多様な溶接線をもつ大きな品物でも,ワークを固定したままの状態で,ほとんどの溶接がカバーできる。
③ トーチが軽いので,腕の疲れが軽減され,長時間の安定した溶接操作ができる。
④ 煙やヒュームの発生がほとんどないので,被覆アーク溶接やマグ溶接に比べて,容易に優れた作業環境が得られる。
⑤ ティグ溶接と同様に,スパッターレスの溶接は,後処理工程を軽減するとともに,品位の高い溶接部が容易に得られる。
⑥ ソフトで安定性のあるプラズマアークが容易に得られるので,肉盛溶接だけでなく,薄板の溶接や熱処理など,幅広い用途に使用できる。
⑦ プレス金型用並びに鋳造金型用の粉体材料が取り揃えられている。粉体材料もいろいろな種類の材料が商品化されているが,その一例を示すと,表1のとおりである。
〈東 雅弘〉