接合・溶接技術Q&A / Q10-01-09

Q各種金型材の耐摩耗部への適正な肉盛材料を教えて下さい。

金型の溶接は,いまだ被覆アーク溶接が主流のようであるが,最近はティグ溶接やプラズマ粉体肉盛溶接が増えてきている。

(1) 冷間打抜き・冷間ばり取り型

この型の刃先の溶接には,JIS Z 3251のDF3B又はDF4A系のマルテンサイト系溶接材料が使用される。

鋳鉄金型の打抜き刃には,下盛に鋳鉄用ニッケル系溶接棒の不要な溶接材料が使用される。

たて切り刃のように,刃先が鋭角になっている刃先にはマルエージング鋼系の溶接材料が使用される。この場合は,肉盛金属を機械加工後,480℃で3時間保持後空冷する。

(2) 熱間鋳造および熱間ばり取り型

加工対象物の温度が600~800℃の場合は,JIS Z 3251のDF3B又はDF5A系の溶接材料が使用される。

加工対象物の温度が800~1000℃の場合は,JIS Z 3251のDCoCrA,DCoCrD又はDFME系の溶接材料が使用される。

加工対象物の温度が1000℃を超える場合は,JIS Z 3251のDCoCrD又はJIS Z 3224のDNiCrMo-5系の溶接材料が使用される。

(3) ダイカスト金型

亜鉛用とアルミ用があるが,溶接対象となるのは溶損部の肉盛溶接である。亜鉛用には,JIS Z 3221のES309又はES310系溶接材料が使用される。

アルミ用の場合は,マルエージング鋼がよく使用される。

(4) 絞り型

絞り面およびビード面の摩耗部が溶接対象になる。JIS Z 3251のDF2B又はDF3Bの他,焼付きを防ぐために銅合金溶接材料がよく使用される。

(5) プラスチック型

この型材にはS50Cなど比較的溶接のやりやすいものが用いられているし,また,焼きの入っている場合も少なく,一見溶接の面からは容易に溶接ができるように思えるが,実際には,この型の溶接は非常に困難である。

その理由は,ポロシティその他のいかなる欠陥もあってはいけない,溶接境界部に硬度差があってはいけない,型材と溶接棒の色調と組織が一致すること,特にシボ加工をする場合は溶接部にシボムラが生じないことなどが必要なためである。

したがって,ほとんどの場合,シボ加工をしないものについては,型材に焼きが入っている場合は焼なましした後,共金系のティグ溶接棒を使用し,所定の予熱を行ってティグ溶接し,焼ならし→加工→焼入れ→焼戻しを行っている。

なお,金型の溶接の場合は,優れた溶接技術と金型材の知識が必要で,軟鋼の溶接ができる程度の溶接技量ではとても満足できる溶接はできない。

そこで,金型の肉盛溶接を行う場合の基本的な注意事項を説明する。

(a) 母材は清浄にする。

溶接開先面はもちろんのこと,溶接部周辺の最低10mm位は,サビ,オイル,ゴミなどを完全に除去する。特に,ティグ溶接の場合は綿密に行う。

サビはポロシティの原因となり,オイル,ゴミなどはポロシティや割れ発生の原因になる。また,これらが開先面に付着していると,溶接金属の母材へのなじみ性が悪くなるとともに溶接ビードが不揃いになる。

(b) 予熱はできるだけ均一に行う。

予熱の目的として,次のようなことが挙げられる。

① 冷却速度を遅くすることによる熱影響部の硬化および脆化の緩和

② 溶接部からの拡散性水素の脱出の助長

③ 溶接部の低温割れの防止

④ 溶接歪みの緩和

予熱方法としては,炉内加熱,炭火,ガス加熱などが採用されるが,特にガス加熱の場合に注意しなければならないことは,急激な加熱は避けることである。急激な加熱を行うと,炎の当たる箇所のみが局部的に加熱されるため,その部分の熱膨張による内部応力が発生し,特に複雑な形状のもの,鋳鉄などは予熱中に母材に割れを発生することがある。なお,溶接中に予熱温度が下がらぬように,溶接中は常に加熱を続ける必要がある。

代表的な鋼材の予熱温度一例を示すと,表1の通りである。

(c) 開先形状は溶接金属の性能が発揮できる形状にする。

開先の形状と溶接材料で,金型材の耐用度は左右されるといっても過言ではない。

したがって,開先の寸法,形状は,溶接金属の性能が発揮できる開先にする必要がある。開先加工はできるだけ機械的な方法で滑らかに仕上げるとともに,コーナーなどはできるだけ丸みを付けるようにする。

標準的な開先形状ならびに積層順を図1,図2に示す。

(d) アークスタートは捨金法またはバックステップ法を採用する。

低水素系溶接棒の場合は,特にアークスタートでアーク不安定になる傾向があるためにポロシティが発生しやすいので,捨金にアークを出して棒の先端が赤いうちに狙い位置にアークを出すようにするか,アークスタート部の20~25mm手前からアークを出しながらバックステップして溶接を開始する。

この場合,金型材の溶接部以外の場所にアークを出さないようにしなければならない。溶接箇所以外の母材にアークを出すと,その部分が硬化するとともに割れを発生し,母材割れの原因にもなる。

また,金型材にアースを取る場合は,ガッチリ取り付ける必要がある。これを疎かにすると,母材とアースの間でスパークを発生し,金型材の割れ原因になったり,溶接中にアークが不安定になる。

(e) アーク長はできるだけ短くする。

特にエッジ溶接の場合はシールドが不十分となりやすく,空気中の窒素,酸素などがアーク雰囲気に入り,ポロシティ発生の最大原因となる。

(f) 溶接電流はできるだけ低くする。

金型溶接の場合は,一般に予熱を行って溶接するので,カタログ表示の適正電流の低めの電流にする。予熱温度が高くなるほど溶接電流を低くする必要がある。溶接電流が高いと,母材への溶込みが大きくなり,溶接金属所定の性能がでないばかりでなく,アーク長が長くなりやすく,ポロシティが発生しやすくなるとともにアンダカットの発生原因にもなる。

(g) 1回のビードはできるだけ短くする。

金型材は熱伝導度が低いので,溶接中に溶接金属の母材への溶込みが段々と大きくなり,スタート部とエンド部では,溶接金属の性能が異なってくる。また,溶接応力も,ビード長が長いほど大きくなり,母材割れ,ビード下割れが発生しやすくなる。

したがって,1回のビード長はできるだけ50mm以下にするようにする。

(h) 溶接はできるだけストリンガビードとする。

ウィービング溶接すると,金型材は熱伝導度が低いものが多いので,溶接熱が局部的にこもりやすく,周辺母材との温度差が大きくなり,内部応力が大きくなるために割れが発生しやすくなる。また,溶接金属の母材への溶込みが大きくなり,溶接金属の所定の性能が得られなくなる。

(i) コーナー溶接を行う場合はスタート部およびクレータ部は必ず角を避ける。

溶接金属のスタート部およびクレータ部は,溶接欠陥が発生しやすいとともにコーナー部は応力が集中するために割れが発生しやすい。

したがって,コーナー溶接をする場合は,コーナーから少なくとも30mm以上離れた箇所でアークをスタートしたりアークを切るようにする。

(j) 各ビードごとにクレータ部からピーニングを行う。

ピーニングは,尖端が丸みをおびたハンマまたはタガネで,連続的に溶接部を打撃して表面層に塑性変形を与える操作であり,ピーニングの効果は次の通りである。

① 溶接応力の緩和

② 溶接変形の軽減

③ 溶接金属の割れ防止

溶接金属はスタート部よりエンド部の方が母材への溶込みが大きくなるので,クレータ部の方が割れが発生しやすいといえる。その割れの発生をできるだけ防止するために,溶接直後にクレータ部からスタート部に向かってピーニングを行う。ピーニングには,金型母材に傷をつけるような,尖端のとがったケレンハンマーの使用は避ける。

(k) 溶接終了後,必ず直後熱を行う。

直後熱は,溶接終了直後に,局部的に,あるいは品物全体を加熱することで,溶接部の残留応力の緩和,溶接部の拡散性水素の減少によるビード下割れおよび遅れ割れの防止,組織の改善などに効果がある。後熱温度としては,予熱温度より50~100℃高めとし,30分以上保持し,徐冷する。

〈東  雅弘 / 2012年改訂[規格]〉

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金型材

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肉盛材料

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