接合・溶接技術Q&A / Q10-01-10

Q鋳鉄の溶接は非常に難しいと聞いているのですが,現場で鋳鉄の装置部品などが欠損した場合に緊急補修できる適正な溶接材料ならびに基本的な溶接施工法を教えて下さい。

鋳鉄の溶接が困難な主たる原因は,鋳鉄は大体2.5~4.5%の炭素を含んでおり,その黒鉛が溶接性の悪い主たる原因になっている。

したがって,鋳鉄の溶接を行う場合は,鋳鉄は軟鋼に比べて引張強さが非常に低く,伸び性がほとんどない,鋳鉄母材が溶融し急冷すると非常に脆いセメンタイト相が発生する,黒鉛が燃焼してポロシティが発生しやすく溶接金属のなじみ性が悪い,鋳鉄の黒鉛が溶接金属の性質を劣化させるなど,鋳鉄は溶接性を阻害する性質が多々あることを十分に認識して溶接を行う必要がある。

なお,現場で鋳鉄の補修溶接を行う場合は,純ニッケル系または鉄―ニッケル系の鋳鉄用被覆アーク溶接棒が採用される。

そこで,注意をしておきたいことは,どこの溶接棒メーカーともに,これら鋳鉄用被覆アーク溶接は,溶込みが少なくなるようにアークの吹付けが弱くなる黒鉛系の被覆タイプに設計されているので,溶接の際,母材が溶けにくいと勝手に判断して電流値を適正電流より上げ過ぎないようにすることである。

なお,良好な溶接結果を得るために,下記の事項に留意する必要がある。

① 予熱は原則として必要ないが,適当な予熱は効果的で,一般的には100~150℃の予熱を行う。なお,ガス炎を用いて予熱を行う場合は,やわらかい炎でゆっくりとできるだけ幅広く予熱を行う。急激に強い炎で加熱すると,母材に思わぬ割れを発生することがあるので注意する。

② 純ニッケル系溶接棒を使用する場合の開先角度は70°~80°とし,鉄―ニッケル系溶接棒の場合は80°~90°にする。

③ 溶接電流は,溶接金属の母材への溶込みおよび熱影響部を極小にするために,できるだけ低電流を使用する。

④ 溶接棒の保持角度は進行方向に対し45°~60°に保持し,アークをできるだけ溶接金属上に出すようにする。

⑤ ビードはすべてストリンガービードとし,ウイビングは極力避ける。

⑥ 母材への過度の溶込みを防止するために,1回のビード長は50mm位にとどめ,各ビードごとにピーニングを確実に行う。

⑦ 鋳鉄の溶接の場合はピーニングは必須条件で,ピーニングは母材に傷をつけないように,ピーニングハンマーは尖端の丸いものまたは平たいものを使用し,ビードの真上からビードのリップルの半分は消える程度に叩く。

⑧ 飛石溶接法または対称溶接法を採用し,溶接部の局部的な過熱を防止する。

⑨ 溶接途中で,割れまたはポロシティを発生した場合は,その箇所を完全にはつり取り,改めて溶接を行う。

⑩ 亀裂補修の場合は,亀裂の始終端部に10f以上の割れ延長防止の孔をあけるとともに,開先面にバタリングを行う。

〈東  雅弘〉

このQ&Aの分類

鋳鉄部品

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補修材料

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