- 接合・溶接技術Q&A / Q11-03-16
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Q銀ろう使用時において発生するCdは,人体にどのような影響を与えるのでしょうか。その対策を含めて教えて下さい。
銀ろうの成分としてのCdは,大変大きな役割を持っている。すなわち,ろうの融点を下げ,ぬれを促進し,母材とのなじみなど,さらにその価格からして他のろう成分と代替えできないものがある。
日本において,Cd公害が論じ始められたのは,昭和43年,イタイイタイ病がCdに起因する公害病と認定されてからである。イタイイタイ病とは,Cdの慢性中毒により起こり,文字どおり人体の膝の関節,骨などが痛み,重病の場合は歩行も困難になる。症状としては,Cdに汚染されて4年目あたりから筋力減退に始まり,後に腰,骨盤などの疼痛が起こり,8年目頃から骨軟化,肩胛骨,四肢骨の横亀裂をみるようになる。これらの病期を通じて,前述した腎障害,肝障害,白血球,赤血球の減少などが表れる1)。また,銀ろう付などによるCdの急性中毒の症状としては,暴露時間,0~4時間では咳,のど,粘膜の軽い刺激,4~10時間では胸がしめつけられる感じ,咳をしたときの痛み,悪寒,これ以上になるとはげしい呼吸困難と喘鳴,胸痛と前胸部の絞やく感,はげしい咳,衰弱,はきけ,下痢などである2)。
次に,Cd含有の銀ろうを使用しての急性中毒および障害事例として,Blejer3)は銀ろう溶接作業を6時間行ったろう接作業者が,4日後にカドミウム排煙ならびに肺浮腫により死亡した例を報告している。
国内においては,乾4)はCd含有の銀ろう接作業を2日間連続して行った後,12日目にCdによる急性中毒を起こし死亡した例を報告している。また,労働省労働衛生課の報告にCdを含有している銀ろうを使用しての急性中毒の事例がある。これによると,密閉された換気装置がない製造工場でのろう接作業で,約4時間作業後咽頭痛,咳,息苦しさなどの自覚症状が出て,「間箇性肺炎,成人呼吸窮迫性候群」と診断され入院したものである。吉田5)らは“ろう接作業におけるカドミウム障害”として,ろう接作業者に呼吸器および腎障害が起こりやすいことを実証している。
以上のように,Cdによる急性中毒,障害例などからして,Cdの人体に与える影響の大きさが理解できる。
銀ろう(Cd含有)を使用して,ろう付中のCd対策としては次のようになる。
(1) 適正ろう付温度以上に加熱しない。
ここに市販の銀ろう(BAg-1,BAg-3:表1に示す)を使用しての加熱温度とヒューム量の関係を図1に示す。図1は加熱温度とろう1g当たり発生するヒューム量との関係を示す。図中の( )はヒューム中に占めるCdの割合を示す。この図のように,ろうの加熱温度が高くなるにしたがって,ろう1g当たりから発生するヒューム量が増加する。また,同一加熱温度においてもBAg-1の方がBAg-3よりもヒューム量が多いのは,BAg-1の液相線温度がBAg-3のそれより低く,ろうが早く溶融するためと考えられる。この液相線温度の差は,主としてCd含有量の差からくるものと思われる。この実験結果からもわかるように,Cdのヒュームを出さないためには,ろうの適正温度でろう付を行うことが重要である。
(2) ろう付時に火炎を絶対にろうに触れないこと。
火炎を直接ろうに触れると,激しくヒュームが発生すると同時に,ろうの成分が変化してしまい,ろうの融点が上昇し,性質が劣化する。このため,ろう付時にはろう付部周辺を加熱し,母材からの間接的な熱でろうを溶融する。
(1),(2)の事項を守ってろう付を行うと,Cdのヒュームは急激に減る。
参考文献
1)高柳:重金属の人体汚染,表面処理ジャーナル1970-No.112)吉川:カドミウム中毒の実際例,表面ジャーナル1971-No.7
3)H. P. Blejer:Death due to cadmium oxide fumes. Ind. Med. Surg Vol.135,pp.363-364,(1966)
4)乾:銀ろう溶接作業者の死亡災害について,産業医学,Vol.17,pp.51-52,(1975)
5)吉田,石井:溶接作業におけるカドミウム障害について,産業医学,Vol.17,p.511,(1975)
〈西田 隆法〉