▼溶接情報センター TOP
▼最新技術情報 TOP
 
   
 
 1.はじめに

品物を取引する際には,両者に共通の物差しが必要であり,古くは中国の秦の始皇帝による帝国内の貨幣,度量衡(長さ,体積,重さの測定単位),文字体の統一は有名な標準化例とされており,日本においても太閤検地はよく知られている。このような共通の基準を定めた各種標準は,歴史を経て地域・業界から国,さらには国際統一されるに至っており,我々の身の回りの安全性,品質や互換性確保に大いに寄与している。特に近年始まった欧州共同経済圏には,ユーロ通貨の統一を始め,あらゆる産業に及ぶ共通標準が必須とされ,欧州共通規格(EN規格)が精力的に作成されたことが発展の基礎と評価されている。しかしながら,その成果を世界に拡大すべく,EN規格をISO規格に格上げしようとする提案が多くの産業界でなされていて,後手に回れば日本の固有事情や意見が考慮されないISOが制定される困ったケースにもなりかねない。
 一方,我が国の溶接材料は,国際運航される造船や米国基準が適用される一部の構造物を除いて,JISが適用される国内産業を対象としてきた。しかしながら,近年のすさまじい産業構造のグローバル化進展と,中国を始めとする日本周辺東南アジア産業の台頭を受けて,日本国内だけに通用するJISでは大きな国際潮流の中で置き去りにされる可能性は大きく,製品の品質,性能,寸法,試験方法などに関する国際共通基準に合致させておく必要があった。また,国際市場における円滑な取引には,相互理解,互換性の確保,消費者利益の確保を図ることが重要であり,我が国の先進技術・製品の国際的な普及のためにも,技術内容が国際的に理解できる形で共有されている必要がある。
 その認識の下に,ISO/TC44(溶接)/SC3(溶接材料)の国内審議団体である(社)日本溶接協会の溶接棒部会では,約20年前から溶接材料の国際規格(ISO)作成に積極的に参画して活動しており,最近に至ってようやく表1に示すように,対象材料・用途向けの溶接材料ISOがほぼ整備されてきた状況となった。一方,1995年に発効したWTO/TBT協定に基づく規格の国際整合化活動の一環として,2001年のJISC(日本工業標準調査会)「標準化戦略」におけるISO整合化JIS改正指針を受けて,まずは試験方法のISO整合化JIS改正を実施し,2004年度からは溶接材料のISO整合化JIS改正を実施してきた。
 上記活動概要は日本溶接協会機関誌「溶接技術」2007年5月号掲載「標準化ニュース:溶接材料規格の動向―国際整合化に基づくJIS改正―」にて紹介されている。
 本稿では,その後の溶接材料ISOの作成・改正状況を報告すると共に,国際整合化JIS改正についての進捗状況報告とその改正ポイントについて説明する。

次のページへ>>
1 2 3 4
 
 

 

 
 

本稿は,日本溶接協会機関誌「溶接技術」2009年1月号に掲載されたものをもとに,
直近の動向を踏まえ一部修正しております。記述内容は2009年3月末日現在のものです。

溶接情報センター