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 2.溶接材料ISOの整備状況

溶接材料のISO規格の作成作業は,1986年のISO理事会決議に基づき国際規格作成組織として承認されたIIW(International Institute of Welding)が1989年以降担当して作成し,そこで作成されたISO原案はISOで審議されることとなった。一方,ヨーロッパ諸国は,前項で述べた通り,1990年代初頭の市場統合に向け,CEN(European Committee for Standardization)/TC121/SC3において溶接材料EN規格の作成を実施していた。
 ここで課題になったのは,規格体系の異なるIIW案とCEN案の一本化であり,ISO/TC44/SC3審議においても解決の糸口がなく数年の協議を要した。その対立点は,溶接材料の分類に用いる特性値に関して,引張強さと降伏強さ,シャルピー衝撃値,ステンレス鋼の鋼種の表示方法などにある。1998年1月に開催されたISO/TC44/SC3において,IIW案とCEN案を合体させた規格案の作成を検討することとなり,1998年9月に開催されたISO/TC44に報告され,「共存型規格の手法の導入」がISO事務局に送付された。それに対し,1999年1月のISO/TC44/SC3会議には,ISOから「ISO規格には共存型規格の概念はない。しかし,溶接材料の分類のような場合には,共存型の手法が非常に受け入れられやすい。従って,共存型規格をケースバイケースで導入するというISO/TC44/SC3の決定に,ISO事務局は賛成する。」との画期的な回答があった。その後,日本も米国と共同作戦でISO案の作成を担当して国際会議に臨み,溶接材料ISO規格作成が促進されることとなった。2008年11月時点のアーク溶接材料ISO規格の作成状況を表1に示す。2002年以降,これまでに24規格のISOを制定した。余談であるが,国際標準を作成する際,欧州の投票数割合が常に過半数を占めることから,我が国の実情を反映した標準作成には困難が付きまとうが,国際一致が得られない事情のある分野での共存型規格の導入はその問題を払拭したと評価され,他の産業分野での共存型ISOの応用も進展しているようである。
 なお,表1のステンレス鋼より上部の対象材料向け溶接材料ISOは、欧州(EN)規格「System-A」と日米を含む環太平洋規格「System-B」との共存規格で構成されており,その他は国際一致規格となっており,「System-B」は,日米で分担して作成している。また、上記共存規格を国内規格に適用する際には,「System-A」と「System-B」のどちらの規格を適用しても良いとされており,JISには環太平洋規格「System-B」を適用する。溶接材料ISOは,対象材料区分の溶接材料毎に規格は作成されており,表1の中に各段階の規格案の進行状況を記載したが,それらは表2に示すように,規格案毎にプロジェクトが設定され,起案から発行までの各段階での各国投票の結果を国際会議の場で審議されることとなっている。ISOが着手から発行に至るまでには,おおよそ3年の審議期間を要している。
 また,最近では,表1に示すように,発行後3年経過のISO見直し作業にも入っており,ISO規格の充実に向けての活発な国際審議に日本が参画している。このISO見直しには,次項で記載するISO整合化JIS改正の過程で露見してきたISO規定の問題点に関する事項が主体であり,表1に記載しているように,多くのISOが平行検討されており,相当に多忙となってきたが,国際会議の場で日本意見の反映に努めている。

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本稿は,日本溶接協会機関誌「溶接技術」2009年1月号に掲載されたものをもとに,
直近の動向を踏まえ一部修正しております。記述内容は2009年3月末日現在のものです。

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