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 3.ISOに基づいた溶接ワイヤの種類区分記号の付け方

JIS Z 3313:1999では,「溶接ワイヤを示す記号」,「軟鋼及び高張力鋼用フラックス入りワイヤ又は低温用鋼用フラックス入りワイヤを示す記号」,「シールドガスを示す記号」,「溶着金属の最小引張強さの水準を示す記号」,「溶着金属の衝撃試験温度及び吸収エネルギーを示す記号」並びに「フラックスタイプを示す記号」の6区分であったが,今回のISOに基づいた区分記号は,図1に示すように,「アーク溶接フラックス入りワイヤを示す記号」,「溶着金属又は溶接継手の引張強さを示す記号」,「衝撃試験温度を示す記号」,「使用特性を示す記号」,「適用溶接姿勢を示す記号」,「シールドガスを示す記号」,「溶接の種類の記号」,「溶着金属の主要化学成分の合金を示す記号」,「吸収エネルギーレベルを示す記号」及び「溶着金属の拡散性水素量を示す記号」の10区分とした。
 それぞれの記号について,以下に説明する。

a) 1番目の区分「T」は,アーク溶接フラックス入りワイヤを示している。旧規格では,溶接ワイヤを示す記号「Y」に軟鋼及び高張力鋼用フラックス入りワイヤを示す記号「FW」,又は低温用鋼用フラックス入りワイヤを示す記号「FL」を付記して表していたが,国際規格との整合化のためにアーク溶接フラックス入りワイヤを示す記号として「T」とした。

b) 2番目の区分「XX」は,溶着金属又は溶接継手の引張強さを示すもので,マルチパス溶接の溶着金属引張特性を規定した表1のように,最小引張強さ(MPa)三桁の上位二桁で表す。この上位二桁を用い区分する方法は,前稿までに解説したJIS Z 3211JIS Z 3312と共通である。なお,JIS Z 3313:1999では,最小引張強さのみを規定していたが,この改正では,最大最小引張強さを規定することとし,ISOに規定されている計10種類を規定すると共に,我が国で開発された新鋼材に対応した5種類を下記の通り追加規定(表1の下線付き記号)した。

1) 橋梁用高性能高張力鋼材BHS500(降伏点500MPa以上)に対応した溶接材料を「57J」,BHS700(降伏点700MPa以上)に対応した溶接材料を「78J」としてJIS独自区分を追加した。

2) 建築用高降伏点鋼材に対応した溶接材料として,降伏点が400MPa以上であるJIS独自区分「49J」,降伏点が500MPa以上であるJIS独自区分「59J」を設けた。

3) 耐火鋼用鋼材に対応した溶接材料として,引張強さが520〜700MPaであるJIS独自区分「52」を設けた。

c) 3番目の区分「X」は,衝撃試験温度を示すもので,その記号規定を表2に示す。旧規格では,衝撃試験温度とシャルピー吸収エネルギーとの組合せで9種類を規定していたが,ISOに規定されている計14種類を規定した。
 なお,旧規格の「YFW-X60EX」及び「YFW-X60FX」に対応する−5℃の衝撃試験温度をJIS独自区分記号として,“1”を追加した。

d) 4番目の区分「TX」は,使用特性を示すもので,その記号規定を表3に示す。シールドガス,電源特性,フラックスタイプ,溶接姿勢,主な特徴及び溶接の種類を示している。

e) 5番目の区分「X」は,適用溶接姿勢を示すもので,図1に示すように,「0:下向及び水平すみ肉」,「1:全姿勢」の2種類を規定した。

f) 6番目の区分「X」は,シールドガスを示すもので, 図1に示す4種類を規定した。

g) 7番目の区分「X」は,溶接の種類の記号であり,具体的には,@マルチパス溶接と1パス溶接との分類,A溶接後熱処理の有無,の二つを示すものである。JIS Z 3313:1999では溶接後熱処理の有無について規定されていなかったが,ISOとの整合化のため,図1に示すように,下記4種類を規定した。

1) Aは,マルチパス溶接で溶接のままで溶着金属の機械的性質を確保できるものを示す。

2) Pは,マルチパス溶接で溶接後熱処理ありで溶着金属の機械的性質を確保できるものを示す。

3) APは,マルチパス溶接で溶接のまま及び溶接後熱処理ありの両方で溶着金属の機械的性質を確保できるものを示す。

4) Sは,1パス溶接で溶接のままで溶着金属の機械的性質を確保できるものを示す。

h) 8番目の区分「XXX」は,溶着金属の主要化学成分の合金を示す。Mn,Ni,Cr及びMoを溶着金属中のmass%でレベル分けし,「Mn:記号なし」,「Ni:N」,「Cr:C」,「Mo:M」の記号にレベルを表す数字を組み合わせた合金記号を用いて,溶着金属の主要化学成分を表し,計23種類を規定した。
 Mn,Ni及びCrについては,記号の後に公称レベルの2倍の整数を組み合わせて表す(ただし,C1はCで表す。)。Moについては,次の4段階にレベル分けした数字を,記号Mの後に組み合わせて表す。また,記号Lは低炭素を表す。例えば,N4C2M2は化学成分の公称レベルが2 %Ni,1 %Cr及び0.4 %Moであることを表す。
 1=約0.25 % Mo=低Mo
 2=約0.4 % Mo=中Mo
 3=約0.5 % Mo=高Mo
 4=約0.7 % Mo=極高Mo

i) 9番目の区分「(U)」は,吸収エネルギーレベルを示すものである(オプション)。国際規格との整合化のために,規定の試験温度において要求される吸収エネルギーが27J以上を基本として無印,47J以上を要求される場合にだけ記号Uを付記するよう規定した。

j) 10番目の区分「HX」は,溶着金属の拡散性水素量のレベルを示すもので(オプション)表4に示す。「H」の後の数字が溶着金属100g当たりの最大拡散性水素量(mL)を示す(無印は規定無し)。

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本稿は,日本溶接協会機関誌「溶接技術」2009年4月号に掲載されたものをもとに,
直近の動向を踏まえ一部修正しております。記述内容は2009年3月末日現在のものです。

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