6.1 設備診断と溶接補修
圧力設備の損傷に対する診断・溶接補修検討の手順例を図2 に示す。溶接補修検討に当たっては、設備診断技術を駆使し損傷部の特定、原因究明、溶接補修の要否・可否の判断、再発防止策などを総合的な観点から検討することが必要である。不適切な溶接補修は品質の低下を招き、新たな損傷や重大トラブルの原因になるため、基本的には溶接補修をできるだけ少なくすることが必要である。従来、プラント設備の保全管理は設計基準に従って実施されて来ており、割れや設計最小肉厚(Minimum Allowable Thickness: MAT)を割り込む減肉については補修や更新によって対応されてきている。
6.2 溶接補修の要否と可否の検討
(1)溶接補修の要否
減肉やきずなどの損傷が認められた場合には、肉厚検査や適切な非破壊検査を行い、損傷状況(損傷形態、範囲、深さなど)を確認すると共に損傷原因を明確にする必要がある。この結果に基づき該当する供用適正評価(Fitness-For-Service: FFS)規格により評価を実施し、次回の定期検査時までの使用を考慮して、溶接補修の要否を決定する。
(2)溶接補修の可否
溶接補修が必要と判断された場合、材料の経年劣化の可能性を考慮し、類似設備での溶接補修事例や技術文献資料などを参考に溶接補修の可否を判断する。
溶接補修の可否は単に溶接性だけでなく、以下に示す項目を総合的に考慮して検討することが必要である。
a.損傷の原因および再発防止策
b.損傷の形態(サイズ、位置、形状、程度、分布など)
c.運転条件
d.材料の劣化度
e.溶接後熱処理(PWHT)の要否および可否
f.非破壊検査、耐圧試験の要否および可否
g.溶接補修やPWHTによる変形
h.作業スケジュール
i.作業環境、安全性
j.経済性(Life Cycle Costなど)
6.3 溶接補修方法
溶接補修法としては、グルーブ溶接(欠陥を除去後)、肉盛溶接(減肉部など)、当て板溶接、窓形溶接(部分更新)がある。この他、外面カバー溶接(リークボックス)や内面ライニング溶接法などがある。損傷の状況によってはグラインダによる欠陥除去、環境遮断による損傷の進展防止(溶射、樹脂コーティング)、リーク箇所の機械的なカバー(低圧条件に可能)、更新など溶接以外の補修方法も考慮すべきである。溶接補修以外の補修方法については、ASME PCC-2規格(Repair of Pressure Equipment and Piping)においてフランジ面の仕上げ、リチュービング、機械的クランプなど溶接以外の補修法が規定されており参考になる13)。
6.4 損傷形態と溶接補修方法
補修方法は、損傷の形態(種類、程度など)に応じて適切に選定することがポイントであり、損傷の再発防止の観点からの検討も必要である。一例として、炭素鋼とステンレス鋼についての主な損傷形態、溶接補修方法および留意点を表2に示す。経年劣化材の溶接性低下や溶接変形を考慮する他、損傷の再発防止や溶接補修に起因した損傷の防止が必要である。
損傷の再発防止の観点からは、溶接部の硬さ軽減や熱処理による残留応力除去も必要となる。また、応力腐食割れや水素誘起割れ防止には溶射やコーティングなどの環境遮断が有効である。水素侵食のように材料劣化が問題となる場合には、溶接補修が困難となり部分あるいは全体更新が必要になる。
6.5 溶接補修施工計画・管理
(1)溶接補修施工管理者
溶接補修の検討・実施に当たっては、設備を管理する保全管理者が中心となり、必要に応じて社内外の圧力設備の設計・製造、設備診断技術者の知見を集め溶接補修の要否・可否を検討することが必要である。具体的な溶接補修の検討・実施は、圧力設備製造会社、エンジニアリング会社やメンテナンス会社などと十分協議して実施する。
(2)溶接補修計画
a.損傷状況と原因を考慮し、類似溶接補修事例を参考に適切な溶接補修方法を決定する。
b.プラントの保全技術者あるいは材料・溶接技術者は、対象設備の損傷状況、運転条件、保全履歴、損傷原因などを考慮して、適切な溶接補修要領書を作成する。社外組織(溶接補修発注先)で作成された場合は要領書の照査・承認を行う。
c.溶接補修責任者は、補修工事責任者および関連部署と協議し作業安全策を決定する。
d.溶接補修施工について品質管理基準を決定する。
(3)溶接補修要領書
溶接補修要領書への主な記載項目を示す。施工対象、欠陥除去方法、溶接補修要領、PWHT、試験・検査、補修記録などについての記述が必要である。
a.施工者、施工管理組織
b.施工対象(機器名、機器使用など)
c.溶接補修の目的
d.施工(責任)範囲
e.溶接補修方法
f.欠陥除去方法および確認方法
g.溶接士の格付け方法(資格)
h.溶接施工要領書(Welding Procedure Specification :WPS)および溶接施工法確認記録(Procedure Qualification Record :PQR)
i.溶接施工上の特記事項
j.PWHTの要否、施工要領
k.溶接補修前後の試験・検査要領、合否基準および立会区分
l.記録すべき項目(溶接記録、検査記録など)
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