2.3 溶接性
(1)溶接による組織変化と硬化
溶接部は溶接金属と溶接熱影響部に区分される。溶接金属部は溶加材と母材の一部がアーク熱で溶解して混合・凝固した部分であり、鋳造組織を呈する。熱影響部は母材がアーク熱で高温に加熱され、結晶粒粗大化や組織変化による機械的性質変化、硬化が生じやすく、母材に比べて材料特性が著しく変化しやすい。図1は炭素鋼上にビードを置いた場合の、溶接部断面の硬さ分布を示す。ボンド部近傍の粗粒域での最高硬さ(Hmax)を示す。最高硬さは、図2に示すように、炭素当量(Ceq: carbon equivalent)とよい相関があり、炭素当量が大きくなるほど硬化しやすい。炭素当量(Ceq)として、次式が提案されている。
Ceq (JIS)= C + 1/6 Mn + 1/24 Si + 1/40 Ni + 1/5 Cr + 1/4 Mo + V/4(%)
Ceq (IIW)= C + 1/6 Mn + 1/5(Cr+Mo+V) +1/15(Ni+Cu)(%)
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図1 溶接部の硬さ分布(1) |
図2 炭素当量CeqとHmaxの関係(1) |
図2は標準条件(板厚20mm,170A, 150mm/分, 4mm径の被覆溶接棒のワンパス溶接)における各種高張力鋼のCeq(JIS)とHAZ最高硬さHmax(Hv10)の関係を示しているが、Ceq(JIS)が0.50%以下では次の推定式が成立する。
Hmax(Hv10)=( 666 Ceq + 40)± 40
一般に、溶接材料は多パス、多層での溶接施工を前提に成分設計されており、溶接金属は次層の溶接熱により熱処理効果を受ける。この再熱された組織は再熱組織と呼ばれ、焼戻し効果で硬さが低減され、延性、靭性も改善される。一般に、低炭素鋼の場合、多層溶接での溶接部硬さは200BHN以下程度に抑えることが可能であるが、母材の化学組成、板厚、溶接入熱などによっては、さらに硬化するため予熱やPWHTなどが必要となる。溶接部における硬さ規定例を表3に示す。湿潤硫化物環境では、235(225)BHN以下、液体アンモニア環境においてはさらに厳しく190VHNに管理する必要がある。ただし、液体アンモニアSCCについては、硬さ管理だけでは必ずしも十分でなく、PWHTを行うケースが多い。
表3 炭素鋼の硬さ規定例
環境
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硬さ
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規格、研究者
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湿潤硫化水素
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≦22HRC
(≦235BHN)
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NACE MR0175/ISO15156
NACE SP0103
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液体アンモニア
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<190VHN
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内田*)
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*)千代田化工社内資料
(2)炭素鋼の溶接割れ性
溶接補修は局部的に実施されることが多いため、拘束が厳しく、急熱急冷を受けやすいため低温割れを生じやすい条件となる。低温割れには下記の3因子が関係する。
a.拡散性水素量(溶接法、溶接材料、溶接環境)
b.ボンド部の硬化組織(鋼材成分PCM、溶接冷却速度)
c.溶接引張応力(拘束度、板厚t)
拡散性水素量は適用する溶接法、溶接材料、溶接環境に関係するが、これについては後述する。ボンド部の硬化組織は前述の炭素鋼のCeqとも関係するが、水素割れが発生しやすいショートビードのような低入熱溶接では鋼材のC量の寄与(マルテンサイトの硬さ)が大きい。このため、溶接割れ感受性組成(PCM値)が提案され、活用されている。WES3009規格“クラックフリー鋼”では、PCM≦0.18%と規定されている。
PCM = C + Si/30 + 1/20 Mn + 1/60 Ni + 1/20 Cr + 1/15 Mo + 1/20 Cu + V/10 +5B(%)
このPCM 値と溶接金属中の拡散性水素量(H)および溶接応力(板厚tの関数で表現:拘束大:t/600、拘束中:t/1000)の影響も考慮して、溶接割れ感受性指数PW値で割れ性評価が行われる。
PW= PCM + H/60 + t/600(%)
H:拡散性水素量(cc/100g)
t:板厚(mm)
y形溶接割れ試験のように非常に厳しい拘束状態で、初層溶接の割れを防止するための予熱温度T0(℃)とPw値の関係を図3に示す。図の直線関係から、予熱温度T0(℃)は次式で計算できる。 適用する溶接材料の拡散性水素量(H)と鋼材PCMからPW値が明らかになれば、割れを防止するための予熱温度T0(℃)が求められる。
T0=1440 Pw -396 ℃
図3 溶接割れ感受性指数(PW)と予熱温度の関係(1)
溶接補修においては環境・拘束状態等を勘案して少なくとも製作時の予熱温度以上に加熱することが望ましい。鋼材のミルシートがある場合には、Ceq、PCMおよびPw値などを試算して予熱温度を決定することが推奨される。
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