2.4 標準的溶接補修要領
炭素鋼の代表的な補修溶接として、表4に割れなどの欠陥除去後の肉盛補修溶接についての標準的な溶接補修要領を示す。局部腐食減肉部の溶接補修も基本的に同様な要領で実施可能である。溶接補修に当っては溶接補修施工要領書の作成が必要であり、実施後には補修記録を作成することが必要である。施工要領書の作成に当っては、損傷原因を究明して欠陥が再発しないような方法を採用する。これには、溶接方法、溶接材料、溶接条件および予熱・直後熱・PWHTの必要性の検討が含まれる。
欠陥の除去部については、溶接補修がしやすい形状にグラインダ仕上げすることが必要である。既設圧力容器や配管の補修では、炭素鋼が水素サービスや湿潤硫化水素サービスなどで使用されている場合、鋼中に拡散性水素が残存している可能性があるため、脱水素熱処理や予熱が必要となる。水素膨れ(ブリスター)、HICの共存が危惧される場合には、これらの発生範囲を非破壊検査で詳細に確認し、適切な補修方法を決定することが必要である。また、熱処理による割れの進展の可能性についての検討も必要である。
このようなケースでなくとも、以下の観点から遅れ低温割れ防止を目的として補修溶接に当り予熱を行うことが有効である。
・補修部は局部的であるため、拘束応力レベルが高くなりやすい。
・補修対象部周辺に水素源になりやすい水分や腐食スケール、油脂などが付着している可能性がある。
2.5 溶接補修施工上の留意点
一般的に炭素鋼は溶接部厚さが25mm以上に対して予熱が規定される。既設設備の溶接補修においては、以下の観点からブローホールや低温割れ防止を目的として予熱を行うことが有効である。
・補修部は局部的であるため、拘束応力レベルが高くなりやすい
・溶接金属からの水素放出と硬化防止
低温割れの再発防止の観点から、補修溶接においては本溶接時の予熱温度よりも30〜50℃高めとし、最小溶接長さを50mmとすることが推奨される(1)。その他補修溶接施工にあたっての拘束応力の軽減、補修溶接後PWHTが必要な場合には熱処理による強度低下にも配慮が必要である。
Cr-Mo鋼の溶接補修は基本的には、炭素鋼と同様であるが、Cr、Mo等の合金元素が含有されているため、焼入れ性が高く溶接部は硬化しやすいのが特徴である。また、高温で長時間使用されたCr-Mo鋼は、焼戻脆化により靭性値が低下するため、脆性破壊の防止に注意が必要である。焼戻脆化は、高温(約350〜600℃)で長期間使用されると問題になる。このため、長期間運転後の機器を溶接補修する場合には、靭性値が低下している可能性があるため、部材の化学成分、運転温度等を考慮し、脱脆化処理の必要性について検討することが必要べきである。焼戻脆化を生じた機器において、図4に示すように補修後のPWHTで脆性破壊した事例がある。約3.5年運転された直接脱硫装置反応塔の改造工事で、局部PWHT時に脆性破壊が発生した(2)。原因は運転中に焼戻脆化が生じた母材において、環境からの水素に起因する水素助長割れが起点となり、反応塔内面ビームサポート部の割れおよび局部焼鈍により発生した熱応力により、脆性破壊が発生したものである。破壊した直接脱硫反応塔の母材2.25Cr-1Mo鋼は製造時のvTr40が-38℃に対し、破壊発生時には部位によってvTr40が49〜100℃高温側にシフトしていることが確認され、明瞭な焼戻脆化の様相を呈していた。Cr-Mo鋼の焼戻脆化は前述のようにJ-factorやX-barに代表される不純物元素量により定量的に予測することが可能である。
図4 破壊した圧力容器の破面外観(2)
溶接後のPWHTは当該法規・規格に準拠して実施するが、現地では局部加熱となり、パネルヒータが採用されることが多い。図5にガスケット溝部補修後のノズル部局部加熱の例、図6にバルクヘッド方式による内面からの加熱事例を示す。局部PWHTの留意点については第1章4.5(6)項に示すとおりであり、温度勾配を緩やかにして熱応力の発生を極力防ぐように加熱幅と保温幅を決めることが必要である。
|
|
図5 ガスケット溝補修時のヒーター
及び熱電対の配置 |
図6 バルクヘッド方式でのPWHT例
|
|