4.5.2 オーステナイト系ステンレス鋼
溶接性に優れており、ほとんど全ての溶接方法が適用されている。しかし、熱膨張係数が大きく、溶接による歪が大きいため、薄板の場合の拘束方法や仮付け溶接を短いピッチで行うなどの対策が必要となる。
また、図31)に示すように溶接熱影響部では鋭敏化により粒界腐食がおこりやすくなる。鋭敏化を防止するには低C材(L材)を使用するか、安定化鋼であるSUS321やSUS347を使用する必要がある。L材の溶接材料にはL材が(たとえばSUS304Lの溶接には308L系)、安定化鋼の溶接には、Nb入りの347系が使用される。
図3 オーステナイト系ステンレス鋼の溶接熱影響部での粒界腐食発生領域
オーステナイト系ステンレス鋼で発生する溶接欠陥の代表的なものは高温割れである。この対策として、溶接材料は高温割れを防ぐ目的で、溶接のままで数%のフェライト相を含むように成分設計されている。高温割れは溶接直後にビード中央部に溶接線方向に発生する。図4に各種溶接金属のフェライト量と高温割れ感受性の関係を示す2)。フェライト量が多くなるほど高温割れ感受性は低下するが、鋼種により高温割れ感受性は異なり、308系や316系に比べ347系の高温割れ感受性が高い。
高温割れに対して特に注意すべきは、空気中のN2の溶接金属への侵入である。Nは強力なオーステナイト生成元素であるため、N2の溶接金属への侵入は溶接金属のフェライト量の低下を招き高温割れを引き起こす原因となる。空気の巻込みを防止するため、SMAWにおいてはアーク長をなるべく短くすることが必要となる。シールドガスを用いる溶接法では、シールドガス流量不足や風によるシールド効果の低下を避けることが必要である。
また、不純物であるSやPは、図53)に示すように高温割れ感受性を高めるため、溶接面にこれらの不純物を含む汚れがある場合には完全に除去する必要がある。
さらに、高温割れ感受性は溶接入熱が大きくなるに従い高くなる傾向にある。SUS310のような溶接金属にフェライト相が生成せず割れ感受性の高い完全オーステナイト系ステンレス鋼の溶接では、溶接に際してはなるべく低いパス間温度と小入熱量とすることが望ましい。
図4 オーステナイト系ステンレス鋼溶着金属の耐高温割れ性に及ぼすフェライト量の影響
図5 オーステナイト系ステンレス鋼溶着金属の耐高温割れ性に及ぼすP、Sの影響
4.5.3 二相ステンレス鋼
オーステナイト系と同様に溶接性は優れている。しかし、フェライト量が高いため600℃以上の温度域での脆化速度が速いこと、熱影響部の耐食性が母材原質部に比べ劣ることなどから、溶接に際しては入熱量を低くし、予熱はせずパス間温度もなるべく低く(170℃以下)することが望ましい。また、σ脆化や475℃脆化を防止するためPWHTは避けるべきである。
母材は熱処理によりフェライト相の割合を35〜65%となるように調整されているが、溶接材料の場合、母材と同じ成分系では溶接金属のフェライト量が高くなりすぎ、延性の低下や耐粒界腐食性が低下するなど悪影響があるため、母材に比べNi含有量が高く設計されている。
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