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プラント圧力設備の溶接補修

第4回 ステンレス鋼の溶接補修

 5.溶接補修施工上の留意点

 ステンレス鋼とその溶接部が受ける損傷は種々あるが、腐食減肉、割れ、脆化の3つが基本であり、実際にはこれら単独と複合したケースとなる。この中で溶接補修の対象となるのは減肉と割れである。

一般に、ステンレス鋼は耐食材料として選定されるため腐食損傷の発生は材料選定に問題があることが多い。溶接補修を行うに当たっては損傷原因調査を行う他、損傷の再発防止として、使用環境条件の変更、環境遮断、材質変更、溶接入熱などの溶接方法の工夫や圧縮残留応力の付与などについての検討が必要である。

これらを前提として、標準的な溶接補修要領を述べる。

5.1 溶接補修方法

オーステナイト系ステンレス鋼の溶接補修要領の一例を表5に示す。溶接材料の選定と熱管理は、共金溶接と同様(表2および3)である。溶接条件も溶接材料メーカーの推奨する適正溶接条件を参考として決めればよい。使用する溶接材料、溶接施工パラメータ、必要な熱管理(予熱、パス間温度、PWHT)、はWPS(Welding Procedure Specification)としてあらかじめ作成し、これに従って施工を行う。

損傷部の欠陥の除去はグラインダ等機械的に行うことが望ましい。損傷範囲が広くやむを得ずアークエアガウジングなどの熱的方法を用いる場合、ガウジングした面から溶融層を除去する目的で約2mm機械的に研削する必要がある。

欠陥の深さと補修方法の関係を図6に示す。両面からの欠陥除去および溶接が不可能な場合には、片面より欠陥除去および溶接を行うこととなるが、欠陥除去後の残存厚さが薄い場合(5mm以下が目安)には裏面の酸化防止の目的から、初層〜3層目までバックシールドが必要となる。

補修部の形状は図6に示すように底部は滑らかとし、コーナー部や底部には融合不良を防ぐため適当な曲率(通常3R程度)をもうける。

初層の溶接後には染色浸透探傷試験(PT)を行い、溶接金属およびHAZ部に割れが発生していないことを確認した後に次層以降の溶接を行うことが望ましい。

溶接補修部は液体浸透探傷(PT)や放射線透過試験(RT)、超音波探傷試験(UT)などにより健全性を確認するが、オーステナイト系は磁粉探傷(MT)は適用不可であり、UTも技術的な問題点が多いため注意が必要である。

水圧による耐圧試験を行う場合には、塩化物SCCや孔食防止にお観点から水圧試験水の塩分濃度管理が必要である。一般的には、塩化物(Clイオン)濃度は50ppm以下に規定されるが、さらに厳しく規定されるケースもある。

図7 損傷削除部の仕上げ形状の一例

5.2 施工上の留意点

ステンレス鋼の溶接施工において母材、溶接材料、溶接機器に関する注意点は基本的には炭素鋼と同じであるが、ここではステンレス鋼に特有な留意点について記述する。

5.2.1 溶接準備

溶接に際しては、ブローホール発生の防止やマルテンサイト系における遅れ割れ防止の観点から、溶接材料は常に乾燥した状態で使用する。被覆アーク溶接棒については、使用前に溶接材料メーカー推奨の乾燥条件で乾燥し、再乾燥不要の溶接材料においても乾燥した環境で保管する。

溶接開先については水分の付着はもちろんであるが、油脂、ペンキなどは機械的にもしくは適当な溶剤を用いて除去する。開先内へのスパッタ付着防止剤の塗布は避ける。

アークエアガウジングやエアプラズマによる加工面の溶融部には窒素が高濃度に存在し、ブローホールや高温割れの原因になるため、グラインダなどにより機械的に研削することが望ましい。

5.2.2 シールドガス

ステンレス鋼においては、主要成分のCrの酸化消耗をおさえることと、空気中のN2の侵入を防ぎ、ブローホールの発生や高温割れを防ぐことがポイントである。シールド不足となる原因としては、シールドガス流量の不足、溶接トーチのノズルサイズが溶融部の大きさに比べ小さいケース、風やヒューム対策の換気などが挙げられる。

ステンレス鋼の裏波溶接には不活性ガスによるバックシールドが必要となる。バックシールドが不足すると写真1に示すように裏波ビードが激しく酸化し、放射線透過試験や外観上問題となるとともに、溶接部の耐食性が著しく劣化する。酸化は、次層の溶接による裏波ビード表面や図5に示すような残板厚の少ない部分の裏側で問題となる。溶接方法や溶接入熱にもよるが、裏面までの板厚が5mm以内の場合にはバックシールドが必要である。

バックシールドにはArガスが使用される。シールド効果を十分出すためには98%以上が必要である。溶接前に酸素濃度計などで酸素濃度を確認することが必要である。

写真1 GTAWによる裏波溶接部のビード外観

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本稿は,日本溶接協会誌「溶接技術」2010年10月号に掲載されたものです。

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