5.2.3高温割れ
オーステナイト系ステンレス鋼の高温割れに関しては4.5.2項で述べたとおり、十分なフェライト量が確保できれば割れは防げるが、クレータ部では高温割れが発生しやすいため、クレータフィラを行い、溶融池を極力小さくしてアークを切ることが望ましい。
高温割れ感受性の高い完全オーステナイト系ステンレス鋼(SUS310など)の溶接では、高温割れ感受性の低い高Ni合金溶接材料(インコネル82等)での溶接が望ましい。
5.2.4 遅れ割れ
Cr系ステンレス鋼では、溶接硬化部において拡散性水素を原因とした遅れ割れが問題になる。炭素鋼や低合金鋼に比較し、水素の拡散速度が遅いため割れ発生時期が遅くなるのが特徴である。
対策としては、
・溶接材料の乾燥、開先部の清浄など水素源を減らす。
・予熱、パス間温度の維持など溶接時の熱管理を十分に行い、直後熱を実施する。
などがある。また、溶接金属が遅れ割れを発生しないオーステナイト組織となる309系やNi合金系の溶接材料を使用する選択肢もある。
5.2.5亜鉛脆化
亜鉛脆化は溶接の熱サイクルで金属亜鉛が結晶粒界に侵入することにより発生する現象で、SUS304などのオーステナイト系ステンレス鋼において問題になる。写真2にSUS304溶接部発生した亜鉛脆化割れの事例を示す4)。割れは溶接金属近傍の420〜750℃(液体亜鉛の存在温度域)に加熱された熱影響部で発生する。割れが発生した場合、割れ範囲が広く、周辺に微量亜鉛が残存すると補修溶接時に割れが発生するなど、補修が極めて困難となるケースが多い。
亜鉛源には亜鉛めっき材亜鉛含有塗装(ジンクリッチペイントなど)などがある。
対策としては、ステンレス鋼の溶接対象部とその周辺への亜鉛汚染を避けることが必要であり、亜鉛めっき材に使用したグラインダでステンレス鋼を研削しない、亜鉛めっきした部分に触れた治具や工具をステンレス鋼に対して使用しないなど細心の注意が必要である。
写真2 ステンレス鋼溶接部の亜鉛脆化による割れ
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