▼溶接情報センター TOP
▼最新技術情報 TOP
 
   
 

プラント圧力設備の溶接補修

第5回 劣化損傷と溶接補修における留意点

3.2 塩化物応力腐食割れの溶接補修

オーステナイト系ステンレス鋼の塩化物応力腐食割れ(塩化物SCC:Stress Corrosion Cracking)について、溶接補修の留意点を示す。

(1) 割れの除去

塩化物SCCでは広範囲に微細な割れが発生している可能性があるので、留意点として割れ範囲を十分確認すること、および除去作業中に割れを助長させないことが挙げられる。前者に対しては液体浸透探傷試験(PT)を実施し、後者に対しては割れの両端を初めに除去するか、ストップホールを設ける方法もある。

割れ深さが浅く、除去後においても強度上の問題がない場合には、グラインダ除去のままで良い。ただし、グラインダ除去では引張残留応力が生じSCC再発の原因となるため、細粒の砥石で研磨することが望ましい1)。また、スパッタやアークストライクはSCCの原因になるので除去する。

(2) 溶接補修

局部的な溶接補修では、拘束度が大きくなり引張残留応力が高くなりやすいため、残留応力の軽減対策が必要となる。したがって、残留応力が高くなり難い溶接施工方法や、下記(3)に示すような残留応力軽減対策を検討する必要がある。また、SCC感受性の低い材料を使用した溶接補修や、腐食性の流体とSCC感受性が高い材料が直接触れないように環境遮断するなども有効である。

(3) 残留応力軽減対策

SCC再発防止のためには、以下のような残留応力の軽減対策が有効である。これらの方法による残留応力軽減効果などのデータは指針で紹介されているので参照願いたい。

a. バフ研磨による溶接部の残留応力の除去
b. ショットピーニング
c. 水冷溶接法
d. Post Weld Cooling法
e. ウォータージェットピーニング法

3.3 液化アンモニア応力腐食割れの溶接補修

常温液体アンモニアを貯蔵する高張力鋼製タンクで生じるSCC(液安SCC)感受性は、使用条件(環境)により異なるが、一般的には硬さが210HV以上の部位で発生しやすく、残留応力の影響も大きい。したがって、硬さや残留応力を抑える溶接施工及び施工後の硬さ検査が必要である。

その他、溶接補修部に対して、溶射(亜鉛やアルミニウム)による環境遮断も有効である2)

3.4 湿潤硫化水素損傷の溶接補修

湿潤硫化水素環境では、硫化物応力割れ(Sulfide Stress Cracking:SSC)、水素誘起割れ(Hydrogen Induced Cracking:HIC)、水素膨れ(Blister)、応力支配水素誘起割れ(Stress-Oriented HIC:SOHIC)などの損傷が問題となる。

(1) SSCの溶接補修における留意点

SSCは硬化部で生じるため、NACE規格などにより硬さ上限が示されている。溶接施工に関しては、一般的には次のような硬さ軽減対策が必要である。

a. 予熱
b. テンパービード法
c. 積層数(2層以上)
d. 低炭素当量(低強度)溶接材料の使用
e. 被覆アーク溶接(TIGよりも硬化しにくい)
f. 治具後の処理、アークストライクを避ける
g. PWHT

また、湿潤硫化水素環境で使用された材料の場合、鋼材中に水素が吸蔵されていると溶接時にブローホールや低温割れを生じる可能性があるため、必要により脱水素処理や溶接直後熱を実施する。

<<前のページへ 次のページへ>>
1 2 3 4 5
 
 

 

 
 

本稿は,日本溶接協会誌「溶接技術」2010年11月号に掲載されたものです。

溶接情報センター