(2) HICの溶接補修における留意点
HICは板厚中央付近で圧延方向に沿って生じやすく、範囲も広範囲にわたる場合が多いため、一般的には溶接補修は困難であり、部分更新、機器更新が必要な場合が多い。HICが局部的で範囲が限定される場合には、HICを除去し肉盛溶接補修することも可能である。また、HICを生じた機器がその後も問題なく使用されていることもあり、API 579-1/ASME FFS-1ではHIC発生部の強度評価手法などが規定されている3)。
HICの溶接補修においては、切断、予熱、溶接、PWHTなどの熱により割れが進展する可能性があるため、事前にHIC発生範囲を十分に確認・除去する必要がある。HICの溶接補修においても、溶接補修部が硬化した場合にSSCが問題となるため、上記のSSCに対する硬さ軽減対策が必要である。また、表2に示すように、脱水素処理により溶接補修過程においてHICの進展が抑えられる結果が得られており、脱水素処理も有効である。
表2 溶接補修過程におけるHICの進展4)
ケース |
施工法 |
HICの進展 |
脱水素処理後 |
補修溶接後 |
1 |
脱水素当て板溶接 |
軽度 |
非常に軽度 |
2 |
脱水素欠陥除去肉盛溶接 |
軽度 |
非常に軽度 |
3 |
脱水素無し当て板溶接 |
― |
著しい |
4 |
脱水素無し肉盛溶接 |
― |
著しい |
(1) 試験材:A515Gr.60、12mm
厚さ。HIC腐食試験(NACE試験)実施。
(2) 脱水素処理:400-450℃ x 30
分
(3) 当て板サイズ(100mm x 100m x 12mm
厚さ)
(4) 肉盛溶接:100mm x 100mm範囲、2層溶接
(5) HIC検査(垂直UT B,Cスコープ)
3.5 経年劣化材の溶接補修
高温で長期間使用された圧力容器や配管材料で著しく延性や靭性が低下する経年劣化現象に関して、溶接補修の留意点を説明する。
(1) 経年劣化現象
代表的な経年劣化現象と対象材料、運転条件および脱脆化条件を表3に示す。また、それらの経年劣化に対する影響因子と劣化度の確認方法を表4に示す。脆化の現象が可逆的であれば、一般的に脆化温度域以上の温度に加熱することで脱脆化が可能である。
(2)
溶接補修における留意点
以下に主な経年劣化現象に対する溶接補修の留意点を示す。
a. 焼戻脆化、475℃脆化、シグマ脆化、水素脆化、時効脆化は、脆化温度域以上に加熱する脱脆化処理が有効である。水素侵食、浸炭やクリープ脆化は非可逆的現象であり脱脆化できない。
b. 焼戻脆化、475℃脆化やシグマ脆化は、溶接性そのものへの影響はないが、補修部近傍に構造不連続部や潜在欠陥があるとこれらの部位を起点とした脆性破壊の危険性があるため、過度な曲げ加工や衝撃荷重(打撃など)を避ける必要がある。溶接補修に当たっては、補修部近傍の健全性確認や、広範囲の予熱適用による熱応力の緩和が必要である。
c. HP系耐熱鋳鋼の時効脆化では、延性低下により溶接HAZ部で割れが発生しやすいため、割れ防止には固溶化熱処理が有効である。
d. SUS347やAlloy800Hの再熱割れは、基本的に溶接補修可能である。しかし、溶接後の熱処理(安定化熱処理)や再運転後に溶接補修部のHAZで割れが問題となるため、高温延性に優れた溶接材料の採用、小入熱溶接、残留応力低減や平滑仕上げ、熱処理などの再発防止策をとる必要がある。
e. オーステナイト系ステンレス鋼FCAW溶接金属部の再熱割れに対しては、FCAWで施工された既存の溶接金属を全て除去(健全部を含む)し、Biフリー(Bi≦0.001%)溶接材料により施工する。
f. 水素侵食は回復処理ができず、広範囲に起きている場合が多いため、溶接補修は困難である。しかし、水素侵食範囲が限定され、完全除去ができる場合には溶接補修が可能である。
g. 水素吸蔵した炭素鋼、Cr-Mo鋼、フェライト系ステンレス鋼については脱水素処理を行い、予熱、直後熱処理を行うことで低温割れやブローホールの防止が可能である。チタンは80℃以上の真空加熱で水素の除去が可能であるが、大気加熱の場合には不動態化皮膜があるため水素の拡散放出は困難である。水素吸蔵したチタンの溶接補修では、脆化部を機械的に除去することが必要であるが、約600ppm以下であれば溶接は可能である。オーステナイト系ステンレス鋼では低温割れ現象はないため、原則として脱水素処理なしで溶接補修が可能である。
h. クリープ脆化材ではHAZ部で割れが問題となりやすいが、割れ・脆化域を除去し溶接補修が可能である。粗大HAZを避けるための小入熱溶接、補修部の平滑仕上げによる応力集中低減が有効である。
i. 浸炭は回復処理ができないため、浸炭層は原則として溶接補修前に除去する。HP系耐熱鋳鋼などでは、溶接補修前に固溶化熱処理することも有効である。
(3) 耐圧・気密試験
耐圧部に対して溶接補修が行われた場合には、基本的に耐圧試験が必要になるが、耐圧試験の実施に当たっては以下のような留意点がある。
a. 対象の機器全体あるいは配管系を含めて加圧されるため、溶接補修部以外の部位においても経年劣化が予想される場合には、脆性破壊防止のために健全性評価が必要である。
b. 脆性破壊防止に必要な適切な加圧温度を求め、その温度以上で試験を実施する。
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