WE-COM 最新号トップへ(WE-COM会員のみ) | この号のトップへ | WE-COM バックナンバートップへ

「溶接用語事典」編集裏ばなし(その1)

ISOでは溶接法や切断法、肉盛法などを溶接法番号(分類番号)で区分しております。無味乾燥な番号でしか、正しく、かつ共通的に表現できないことは、我国で検討が始められた国民整理番号制に似た宿命があるような気がいたします。

余談になりますが、我国でも一時こんな説明が用語としてなされていたことがありました。

被覆アーク溶接法:被覆アーク溶接棒を用いて行う溶接法。

被覆アーク溶接棒:被覆アーク溶接法に用いられる溶接電極。

さすがに現在の被覆アーク溶接棒に関する説明はやや詳しくなっていますが、笑い話では済まされないことだと思います。ちなみに、本事典では「被覆アーク溶接棒」を引くと、参照として「被覆アーク溶接棒用心線」、「被覆剤」が表示されます。ここでは、被覆アーク溶接棒の特徴を最もよく現しているのは「被覆剤」ですから、これを「被覆アーク溶接棒」とともに記載すると下記のようになります。

被覆アーク溶接棒」:アーク溶接の電極として用いる溶接棒で、フラックスを塗装(厚被覆)しているもの。溶接棒ともいう(JIS Z 3001)。 「被覆アーク溶接棒用心線」、「被覆剤」参照。

被覆剤」:被覆アーク溶接棒の心線に塗布(塗覆装)してあるフラックス(JIS Z 3001)。被覆アーク溶接棒には各鋼種別、金属材料別に各種がある。そのうち軟鋼および低合金鋼用については、軟鋼の心線が使用されており(「被覆アーク溶接棒用心線」参照)、被覆アーク溶接棒の種類・特徴は主として被覆剤によって決まっている。被覆剤は、塩基性(低水素系)と酸性(非低水素系)とに大別されるが、非低水素系はさらに、イルミナイト系、ライムチタニア系、高セルロース系、高酸化チタン系、酸化鉄系などに分類され、それぞれフラックスの組成が異なっている。被覆剤の主な機能は①アークを安定化する。②ガスを発生して溶接部を大気からシ−ルドする。③スラグを生成し、溶接金属にシールド効果と精錬効果を与える。④溶接作業性(usability)を改善する。⑤金属粉末を加えて、溶接金属への合金元素の添加や、脱酸をおこなう、などがあげられる。

このように、「参照」(または「参考」)をたどることによって、より深い理解が得られることになります。

なお、前掲のISO, AWS, JISの溶接法名称の比較表では、他にもいろいろな違いに気付きます。ご一読下さい。

2〜3看過できないことがあります。それは、

・我国で開発され、圧力容器の製作で充分な実績のある帯状電極エレクトロスラグ(肉盛)溶接がISOでとりあげられていないこと。

・やはり我国で採用されていることの多いプラズマガウジングが、日本やAWSで記載されていないこと

・消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接はAWSにはありますが、ISO,JISともに記載がないこと(単に消耗ノズルのみ記載はある)

などです。

おわりに

この記事は次号以下でも継続して連載いたしますが、ご希望やご一読後の感想・意見などお寄せいただければありがたいと考えております。

(日本溶接協会・顧問 野村博一)


(WE-COM会員のみ)