3. 極性の影響
炭酸ガスアーク溶接において適用される逆極性溶接(ワイヤプラス)では、ワイヤ先端の溶滴に発生するアーク点(アークプラズマの陽極)がワイヤ組成の影響を受け難く、正極性溶接(ワイヤマイナス)と比較するとアークが安定化する。しかし、その一方で、アーク発生位置が溶滴の揺動とアークの偏向によって容易に移動するため、スパッタ低減の観点からみるとアーク安定性は十分ではなかった。これに対し、正極性溶接(ワイヤマイナス)では、アークが大きく変位し、傾く。アーク点(陰極)はFeよりも電子放出の容易な FeO等の酸化物に集中するが、酸化物がアーク集中によって破壊され、それによりアーク点が新たな酸化物を求めて移動し続けることにより、アークは著しく不安定になるとされている。そのため、溶滴は粗大になりスパッタ発生も多い。
図3に、逆極性溶接(ワイヤプラス)と正極性溶接(ワイヤマイナス)のアーク現象を模式的に示す。逆極性(ワイヤプラス)の陽極点は比較的安定であるが、正極性(ワイヤマイナス)の陰極点は酸化物に集中し易く不安定である。この不安定なアークによって溶滴は変形し、溶滴移行が妨げられることで粗大化する。しかし、正極性溶接(ワイヤマイナス)においてアーク点(陰極)が安定化されれば、図のように安定なアーク形態が得られると考えられる。
図3 アーク現象の模式図