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第4回

相談例11.ワイヤ放電加工したSUS316L鋼板の低融点金属ぜい化割れ

SUS316L鋼板にワイヤ放電カット(真鍮ワイヤ)したワーク①と、ワーク①が収まるように機械加工にてザグリ加工したワーク②のはめ込溶接を行ったところ、溶接中間部で溶接方向と垂直にワーク①母材部に割れが発生しました。ワイヤカット面のSEM-EDS分析の結果、Cu:25%,Zn:5%が付着していました。発生した割れはワイヤ放電カット時に付着した亜鉛によるものと考えています。 同様の事例と対策を教えてください。

回答

ワイヤ放電加工に使用した真鍮(Cu-Zn:融点約900℃)ワイヤが母材に接触又は放電により溶融してCuとZnが被切断面に移着し、その部分を溶接したために低融点金属によるぜい化割れ(粒界割れ)が発生したと判断されます。真鍮ワイヤによる事例とは異なりますが、参考になる低融点金属ぜい化割れの事例報告は下記にあります。


<割れ事例>

1.日本溶接協会特殊材料溶接研究委員会編「ステンレス鋼溶接トラブル事例集」P15〜20(Znによる溶接割れ)

2.産業総合技術研究所の溶接作業標準8A−8A−A等に、Zn(亜鉛含有塗料)とCu(銅含有塗料)による割れ発生事例があります。

*産総研の加工技術データベースで検索し、アーク溶接→溶接作業標準→8A‐8A‐A(サンプルページ)。パスワードを取得(無料)して利用ください。


<割れのメカニズム>

Znぜい化のメカニズムは必ずしも明確にはなっていないが、溶融Znが粒界に侵入することによって生じる液体金属ぜい化説等があります。オーステナイトステンレス鋼はこの割れ感受性が高いので、溶接に当たってはZn等の低融点金属による汚染には十分な注意が必要であるといわれています。


<対策>

真鍮、Zn、Cuの融点はそれぞれ約900℃、412℃、1085℃と低いので、溶接熱によって容易に溶融され粒界侵入して、引張応力の存在のもとで割れにいたります。従って、以下の割れ対策が考えられます。

(1) Zn及びCuの汚染源を絶つ。ワイヤの材質、放電条件等の検討も必要と思います(ワイヤ材質が真鍮であれば、トラブルは引き続き再現する危険性がある。過去においては、同様な放電加工面を溶接しても割れは発生しなかった実績があるのであれば、溶接に解決策を求めるよりも、放電加工の条件・方法を見直し、CuやZnが被切断面に移着しない加工条件を見出すことが根本的な対策と考えます)。

(2) SUS316L母材が400℃以上に加熱される領域に、付着又は粒界浸透したZn及びCuを完全に除去する。除去の方法としては、機械加工・グラインダ等がありますが、Zn/Cu粒子は研削面に残留しやすいため完全に除去されたことを確認することが重要です。もし、機械的な研磨を嫌うなら、酸洗のような化学的な研磨を検討する。Zn粒子有無の検査例を後述の参考資料に示します。


参考資料:亜鉛検出検査要領

(1) 試薬

試薬 A:6%水酸化ナトリウム水溶液(希釈水は蒸留水を用いる)と試薬 B:0.02%ジチゾンを含むエタノール液

(2) 方法

ステップ1:亜鉛の検出試験を行う部分を清水で洗浄し、ほこり(埃)等を取り除く。

ステップ2:試薬Aを、ろ紙、ペーパータオル、布等(白色に限る)に滴下し、試験面に張り、約1分間保持する。

ステップ3:試薬Bを、ろ紙等に滴下する。

試薬A、Bの適量滴下には、スポイトなどの使用が有効である。

(3) 判定

亜鉛検査結果例を図5.3-2に示す。亜鉛が存在していればピンク色に変色する。亜鉛が存在していなければ変化がない。

  
亜鉛検出なし

亜鉛検出あり
参考図1 亜鉛検出検査結果



グラインダ仕上げ状態亜鉛検出検査結果(a,b部で亜鉛検出)
参考図2 グラインダ仕上げ状況と亜鉛検出検査結果


(WE-COM会員のみ)