相談例12.ティグ溶接の作業環境管理
ティグ溶接作業時の作業環境についての管理が不明瞭で分かりません。被覆アーク溶接等のように防塵マスク・集塵機等について、作業環境管理をしなければならない規定なり、義務はあるのでしょうか、ご教示ください。
溶接作業は、オーステナイト系ステンレス鋼(板厚1〜2mm)のI 開先またはV 開先ティグ溶接で、溶接電流は20〜150A、作業時間は断続的に約半日、長くても1ヶ所、5分程度の溶接時間になります。
回答
粉じん障害防止規則(粉じん則)において、金属をアーク溶接する作業は、粉じん作業として、屋内・屋外を問わず対応処置をすることが義務付けられています。屋内作業にあっては、全体換気装置、休憩設備、清掃の実施及び呼吸用保護具の対応が必要です。貴社で行われているステンレス鋼のティグ溶接作業場での溶接作業者及び事業所として実施しなければならない事項をまとめると次の通りです。
1.溶接作業者
溶接作業者口元近傍のティグ溶接ヒューム濃度は、他のアーク溶接と比較して低いものの、管理濃度(3mg/m3)を超えています。したがって、常に、呼吸用保護具(ろ過式の取替え式または使い捨て式防じんマスク等)を着用しなければなりません。
防じんマスクの性能を維持するためには、マスクと顔面との密着性を保つことが必要です。しかし、夏場の暑い時期では、防じんマスクの密着性を保ちつつ溶接作業を行うことは、かなりの困難を伴います。電動ファン付き呼吸用保護具は、作業環境中の空気をフィルタでろ過した清浄な空気を着用者の面体内に送り込む構造をしており、高温・多湿の作業環境下では、非常に有効な呼吸用保護具と考えられます。
2.事業所(者)
事業所(者)として行わなければならない事項を次に記述します。
(1)全体換気
全体換気装置の設置が粉じん則で義務付けられています。全体換気装置は、作業場の大きさ(容積)、粉じんの発生量、作業者数などによって装置の能力、配置位置、数を決めなければなりませんが、少なくとも次に示す事項を検討の対象に加える必要があります。
① 空気取り入れ口と排気口(全体換気装置取付け口)は、空気のよどみがないようにし、作業場全体が換気されるようにする。
② 溶接作業場は、換気の効率をあげるため、できるだけ他の作業場と区画する。
③ 排気口は、溶接作業場域に多く設置し、粉じんの拡散が建屋全体に及ばないようにする。
④ ヒュームは、アーク熱の上昇気流に乗って床面約5〜6メートルの高さにまで上り、その位置でしばらく停滞し、時間の経過とともに一部床面に沈降する。したがって、あまり高い位置に排気口を設置しないようにする。
⑤ 建屋内に取り入れた空気は、そのまま気流として流さないで建屋内の空気とよく混ぜてから排気する。
⑥ 屋内作業場の窓や開口部から屋外の新鮮な空気を積極的に取り入れ、動力による換気装置の効果を向上させる。
溶接作業者は、防じんマスクの着用によって防護されています。しかし、同一作業場の他の作業者は、防じんマスクを着用していませんので、作業場の環境濃度は、管理濃度以下にする必要があります。
(2)休憩設備
“溶接作業以外の場所に休憩設備を設け、作業衣などに付着した粉じんを除去することができる用具を備え付けること”が粉じん則で規定されています。作業時間外における粉じんのばく露を避けるために、作業場と別の場所に休憩設備を設置することを義務づけています。
(3)清掃の実施
① 日常の清掃
溶接作業場は、毎日、清掃を行わなければなりません。床、通路、身の回りの作業台や棚などを清掃します。清掃方法は、真空掃除機を用いることが最良です。また、粉じんを飛散させるような作業場の場合は、防じんマスクを着用すると共に、できるだけ短時間に済ませるが必要があります。
② 定期清掃
1月以内ごとに1回、粉じんを飛散しない方法(真空掃除機を用いるなど)によって、堆積粉じんを除去しなければなりません。定期清掃を、あらかじめ計画し、実施に際しては、清掃責任者を選任し、職場巡視などを行うと共に、評価を記録・保管する必要があります。