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ティグ溶接におけるアークプラズマ内での
金属蒸気挙動の不思議

ヘリウムの線スペクトルは時間が経つにつれて、明らかに弱くなっていくことがわかる。逆に、クロムとマンガンの線スペクトルは、時間とともに強度が増していることがわかる。一方、鉄の線スペクトルは、溶融池表面のごく近傍においてのみ観察されるのが特徴である。これらの結果をまとめると、母材の溶融池の形成と成長とともに、溶融池表面から少なくともクロムとマンガンがアークプラズマ中に浸入する。クロムやマンガンなどの金属原子は、一般的に表1に示すように、シールドガスのヘリウム原子に比べてイオン化エネルギーが非常に小さい。このため、高温のアークプラズマ中で簡単にイオンとなり、プラズマ中にたくさんの電子を生むことになる。プラズマ中のイオンや電子の数が増えれば、結果的に、プラズマの電気伝導率が上昇し、電気が流れやすくなる。言い換えると、ジュール加熱が小さくなって、アークプラズマの温度が低下することになる2)。ここで、ヘリウムの線スペクトルは、2万度を超える高温において強く光るのが特徴であり、逆に、1万度以下のプラズマではほとんど光らない。したがって、アークプラズマ中へのクロムやマンガンの蒸発が原因となってプラズマ温度が徐々に低下し、その温度低下に伴ってヘリウムの線スペクトルの強度が弱くなるのである。

表1 各原子のイオン化エネルギー

さて、次に母材を純鉄に変更して、ティグ溶接を行った場合である。純鉄からはクロムやマンガンの蒸発はないので、ヘリウムと鉄のそれぞれの線スペクトルイメージの動画を見てみよう。特に、ここでは、ヘリウムに注目してもらいたい。溶接開始直後は線スペクトルの強度が若干強いが、その後、時間の経過とともに低下することはなく、溶接終了の20秒後までほぼ一定の強度を保っていた。この時の鉄の線スペクトルは、動画にみるように、溶融池表面のごく近傍においてのみ観察された。これは、動画1と動画2の結果をまとめると、明らかに鉄がアークプラズマの中心部まで浸入していないことを意味している。

動画2 純鉄のティグ溶接を行った場合の
ヘリウム(He I)、鉄(Fe I)の各原子の線スペクトルイメージ


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