WE-COM 最新号トップへ(WE-COM会員のみ) | この号のトップへ | WE-COM バックナンバートップへ

ティグ溶接におけるアークプラズマ内での
金属蒸気挙動の不思議

4. 電極表面およびスマットの分析

図4は、同様に、ステンレス鋼の20秒間のティグ溶接を行った後、エネルギー分散型X線分析装置(EDAX)によってタングステン電極表面の元素分析を行った結果である。左側が走査型電子顕微鏡(SEM)写真、右側がクロムの元素マッピング分析結果である。図から明らかなように、電極表面にはクロムが付着している。ただし、注目すべきポイントは、電極先端から約1.8ミリメートルの位置まではクロムがほとんど見られず、1.8ミリメートルより離れた位置においてクロムの存在が明瞭に示される点である。なお、同様に鉄とマンガンの元素マッピング分析を行ったものの、マンガンに関しては均一に付着していたが、検出される量はごくわずかであった。また、鉄に関しては検出できなかった。

図4 ステンレス鋼のティグ溶接後のタングステン電極表面に関するSEM写真(左)
およびEDAXによるクロムの元素マッピング分析結果(右)

図5は、高速度二色放射温度計測システムを用いて測定した、ステンレス鋼のティグ溶接中のタングステン電極表面の温度分布である。電極先端部では約3,500 Kに達しており、電極先端から1.8ミリメートルの位置において約3,000 Kまで低下するものの、2.6 ミリメートルの位置においても約2,100 Kの高温を保持している。ここで、今まで着目してきた鉄、クロム、およびマンガンの沸点を調べてみると、それぞれ3,160 K、2,933 K、2,305 Kであった3)。すなわち、図4の電極表面の元素マッピング分析結果と比較すると、図5より電極先端から1.8 ミリメートルの位置で約3,000 Kになっていることから、沸点以下の温度になる領域にクロムが付着していることがわかる。つまり、プラズマ中に金属元素が存在していれば電極表面の沸点以下の領域に付着することが可能と言える。一方、マンガンでは、その沸点が2,305 Kと低いため、2,100 Kを超える高温の電極表面には付着が難しかったものと考えられよう。しかしながら、鉄に関しては、約1.6ミリメートルの位置で鉄の沸点と同程度の3,200 Kになるが、クロムと同様の傾向は見られなかった。このことから、鉄はプラズマ中にほとんど存在していないことが明らかになった。

図5 ステンレス鋼のティグ溶接中のタングステン電極表面の温度分布


(WE-COM会員のみ)