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ティグ溶接におけるアークプラズマ内での
金属蒸気挙動の不思議

次に、ステンレス鋼の20秒間のティグ溶接を行った後のスマットの定量分析を行った。スマットとは、溶接後に母材表面に付着している黒いスス状の金属微粒子のことである。図6にEDAXによって元素分析を行った結果を示す。この定量分析結果から、プラズマ中にほとんど存在していなかった鉄が多く含まれていることが明らかになった。

図6 ステンレス鋼のティグ溶接後に母材表面に付着した
スマットのEDAXによる定量分析結果

5. おわりに

以上の議論は、ステンレス鋼を溶接した際に発生する金属蒸気がアークプラズマ内に侵入するものの、元素の種類によってアークプラズマ中で分離されることを意味している。すなわち、鉄は秒速100メートルを越える高速のプラズマ気流によって溶融池表面近傍に沿って吐き出されるが、クロムやマンガンはプラズマ気流によって吐き出されずにプラズマ中を上方へ環状的に泳動し、タングステン電極に達する。ほぼ同じ質量の元素でありながら、アークプラズマ中での挙動の違いは劇的である。アーク溶解による金属精錬については古くから示されているが5)、アークプラズマを媒体とした金属元素分離の現象が可視化されたのは世界でも初めてであろう。

ティグ溶接において、タングステン電極の消耗は、施工上の一つの課題である。鋼板を母材にした場合のタングステン電極の消耗は、水冷銅板を母材にした場合と比較すると10倍以上も増加する6)。溶融池表面から蒸発する金属蒸気の一部がタングステン電極に到達し、合金化して融点を低下させるためである。特に、熱を集中させるためや、ごく薄板の溶接施工を実施するために、アーク長を1ミリメートル以下に設定する場合には、その傾向が顕著である。金属蒸気の影響をうまく排除し、タングステン電極の消耗を抑えて、安定なアークを維持させることが大切である7)

 

参考文献

1) S. Tsukamoto, et al.: High-Speed Measurement of Plasma Temperature in CO2 Laser Welding, Proceedings of ICALEO’99 (1999).

2) H. Terasaki, et al.: Effects of Metal Vapor on Plasma State in Helium Gas Tungsten Arcs, 溶接学会論文集, 20-2 (2002), 201-206.

3) 日本金属学会編: 金属データブック (改訂3版), 丸善, (2000).

4) S. Tashiro, et al.: Numerical analysis of fume formation mechanism in arc welding, J. Phys. D: Appl. Phys., 43 (2010), 434012.

5) 三村ら: プラズマ製錬の最近の動向, 高温学会誌, 9-3 (1983), 88-97.

6) 内田: TIG溶接用タングステン電極の性質, 溶接学会誌, 32-10 (1963), 1006-1017.

7) 小西ら: ティグ溶接における狭窄ノズルのアーク現象に及ぼす影響, 溶接学会論文集, 32-2 (2014), 47-51.

<略歴>

田 中  学

1992年 大阪大学大学院 工学研究科 溶接工学専攻 前期課程修了
1992年 大阪大学 助手 溶接工学研究所
2000年 博士(工学) 取得
2003年 大阪大学 助教授 接合科学研究所
2008年 大阪大学 教授 接合科学研究所、 現在に至る


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