相談例13.既設炭素鋼配管STPG-370の裏波溶接におけるバックシールド
既設配管STPG-370へのタイイン(切り込み)で、配管溶接(初層テイグ溶接、2層以降被覆アーク溶接)を行うにあたり、配管内部(裏波側)の雰囲気を窒素で考えています。SUS配管ではバックシールドとしてアルゴンの代わりに窒素でも可能かと思いますが、炭素鋼鋼管では文献が見当たらず悩んでいます。
次の項目について教示お願いします。
(1) 炭素鋼配管の裏波溶接におけるバックシールドの要否
(2) 配管内を窒素雰囲気のバックシールドで溶接した際の機械的性質及び、非破壊検査(RT)での性能はどのようになるか。
(3) 既設配管内の流体が可燃性ガスであり、そのガスの残存が考えられるため既設配管内に窒素を流すことを考えました。ちなみに、溶融金属内での窒素量増加による、靭性の低下等が問題であれば、アルゴンガスでのバックシールドでは問題はありませんか。
回 答
(1) 炭素鋼配管の裏波溶接におけるバックシールド
基本的には、炭素鋼製鋼管の裏波溶接において、バックシールドは不要です。一方、2.25Cr-1Mo鋼以上のCr-Mo鋼、ステンレス鋼等の初層溶接には十分なバックシールドが必要です。その理由は、バックシールドが不足すると、図1に示すように裏波ビードが激しく酸化し、放射線透過試験や外観上に問題が生じ、又主要成分Crの酸化消耗のために溶接部の耐食性が著しく劣化するからです。
図1 ティグによる裏波溶接部のビード外観
(鋼材:SUS304、バックシールドガス:アルゴン)
参考図 バックシールドガスに窒素ガスを用いた裏波溶接部のビード外観例(SUS304)
各種鋼材の初層裏波溶接で、バックシールドなしでの裏波形状を図2に示します。炭素鋼及び1.25Cr-0.5Mo鋼ではバックシールドなしでも良好な裏波が得られるが、2.25Cr-1Mo鋼以上のCr-Mo鋼では酸化の影響が認められます。従って、炭素鋼及び1.25Cr-0.5Mo鋼まではバックシールドなしで施工しても問題はなく、実施工でもバックシールドなしで実施されています。
図2 バックシールドなしでの裏波溶接ビードの外観と断面形状
(2) 窒素雰囲気バックシールドでの機械的性質及び非破壊検査(RT)
炭素鋼を窒素雰囲気で溶接した場合、その溶接金属には窒素が吸収されて窒素量が増加します。溶接金属の機械的性質に及ぼす窒素の影響としては、溶接金属のじん性劣化と降伏強さの増加が生じます。ティグ溶接金属の窒素量は、溶接ワイヤ、母材の窒素量及びシールドガスの窒素ガス%によって決まります。しかし、窒素ガスバックシールドの影響は初層のみであり、かつティグ溶接トーチからのアルゴンガスによるシールドによって溶融金属が保護されるので、溶接金属の窒素量の増加は実質的にはそれほど高くないと思われます。また、窒素ガスバックシールドのRTの結果への影響は殆ど無視できると思います。但し、窒素ガス圧が高すぎると、溶接金属にブローホール等の欠陥が生じることがあるので注意が必要です。
(3) アルゴンガスでバックシールドした場合
適切なガス圧でのアルゴンによるバックシールドであれば溶接金属の機械的性質等で何ら問題はありません。