WE-COM 最新号トップへ(WE-COM会員のみ) | この号のトップへ | WE-COM バックナンバートップへ

第5回

相談例14.異材溶接(SUS304L+SS400)の割れ対策

容器の異材溶接で、解決ができない溶接割れが生じています。弊社での調査結果、対策を以下に報告いたします。問題解決を図りたくご教示ください。

割れ発生状況

胴板SUS304L(t=13mm)に補強材SS400(形鋼)を、半自動マグ溶接(ワイヤ:309、シールドガス:CO2)にてすみ肉溶接(脚長約8mm)した際にSS側の止端部に溶接割れが発生(図1)。割れは平成15年末〜平成16年前半に、国内産電炉材,SS400(0.07-0.15%C、0.010-0.041%S)で頻繁に発生した。

図1 割れ発生状況

原因究明

破面解析から、Sが起因となっている高温割れと判断した(図2)。SS400側が圧延形鋼(I形、チャンネル、平鋼)の場合にかなり高い確率で発生することが判明した。

図2 割れ部の調査結果

対応策の検討

① 低S材の検討

② 溶材フェライト量の制御:SUS312ワイヤで割れは減少したが完全な解決でない。

③ 希釈率の制御:施工条件等の見直しで改善はされたが、完全な解決でない。

現状は③の精度を上げることと、②の方法等で対応しているが、割れゼロには至っていない。圧延形鋼では表面近傍にSが分布しやすいなどの傾向があるのでしょうか。または、圧延形鋼で高い確率で発生する別の要因があるのでしょうか。

回答

ご相談のSS400側溶接止端部における割れは、ステンレス鋼と形鋼や平鋼の異材溶接(SUS304L+SS400)のすみ肉溶接等でよくある現象のようです。炭素鋼の共金溶接では発生しないためあまり話題にはなりませんが、痛い目にあっているところも結構あると聞いています。また、高炉材では発生しないが、電炉材では発生するといわれています。割れの原因等は貴殿のお考えのように、Sによる高温割れと判断されます。ただし根本対策はSS400のS量制限が必須です。割れが頻発した平成15年末〜平成16年前半の時期は海外等からの不良スクラップが使用されて、電炉製鋼材のS量が規格値上限に近いものが存在した可能性が高いと想像できます。

割れの原因と対策について以下にコメントを記します。

(1) SS400側溶接止端部における割れの原因

貴殿のご推察のとおり、SS400鋼のS成分が高いことによるS起因の高温割れと判断されます。添付の破面及びミクロ組織写真から、SS400鋼の溶融境界部に発生しているのでS量の多い粒界が局部溶融した高温割れ(粒界割れ)と思われます。

ステンレス鋼と炭素鋼の異材溶接では、ステンレス鋼の熱膨張(収縮)係数が炭素鋼の約2倍大きいために、凝固後の冷却過程で大きな引張応力が発生します。さらに、ステンレス溶接金属の高温強度が炭素鋼よりも高く、熱収縮による大きな引張ひずみが炭素鋼HAZに集中します。両側すみ肉T継手の場合には板厚方向の応力が高く、上記の炭素鋼HAZ粒界に局部液化が生じると容易に高温割れの発生に至ります。なお、今回は止端部のHAZ粗粒部に割れが認められていますが、S成分が多い炭素鋼の事例では、非金属介在物(MnS、酸化物)を起点としてHAZ近傍或いは母材部の板厚方向に階段状に割れ(ラメラテア)が生じることもあります。

(2) SS400側がI形鋼、チャンネル、平鋼の場合に高い確率で発生する理由

I形鋼、チャンネル、平鋼は国内電炉又は海外ミル製が殆どです。これらのミルでは、スクラップを使用すること、及び脱硫設備を持っていないことのために、製品の不純物元素、特にS含有量が高くなっています。一方、国内高炉ミルの場合は、高炉から出た溶銑(S=0.03, P=0.11%レベル)のほとんどを予備溶銑処理設備によって、不純物はS≦0.008%、P≦0.03%レベルに低減させます。従って、高炉製形鋼及び厚板の不純物レベルは電炉製に比較して低くなっています。例えば、建築用SN490C鋼のようなZ方向特性を保証した鋼材では、転炉でRH真空脱ガス、更なる脱硫処理及びCaによる硫化物の形状調整が行なわれます。その結果、このような割れの発生確率が電炉製形鋼では高く、高炉製形鋼及び厚板では低くなっていると思われます。

なお、形鋼でもSが表面近傍に分布する傾向はありません。厚板と同様に、Sは連続鋳造工程(CC比率は約99%)の凝固終了部、すなわち板厚中央部に偏析する傾向にあります。

(3) 割れ防止策

割れ対策の基本は、SS400のS量を制限することです。

① 低S材の入手

・設計及び鋼種変更の必要はありません。低S材の受け入れ検査要領書を作り、対応する。

・高炉製或いは電炉製でもミルシートで低Sであることが判明した在庫SS400を流通市場で入手してストックする方法もあります。

② フェライト量の制御

・溶接材料をフェライトモード凝固するステンレス鋼溶接金属となる材料を選んでも、割れ感受性が軽減されるだけで、割れが発生しない保証はないと考えます。

③ 希釈率の制御

・入熱を下げてSS400材の加熱を出来るだけ抑えるのが良いが、根本対策とはなりません。

④ SS400鋼溶接部のバタリング

・バタリング溶接も対策の一つですが、大変な手間が必要で、割れ防止の保証は困難です。


(WE-COM会員のみ)