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第6回

相談例18.脱水素処理後の非破壊検査(MT)

タワー本体と補強リングの隅肉溶接で、HIC(水素誘起割れ)が懸念されるため、施工前にタワー本体表面の脱水素処理を250℃で行うことになりました。 脱水素処理直後の検査を、磁粉探傷検査(磁粉検査液は20〜30℃)とした場合、表面温度がどの程度まで下がれば検査を行ってよいのでしょうか。

回答

磁粉探傷試験(MT)を規定したJIS Z 2320-1〜3(ISO 9934-1〜3のMOD)では、試験温度に関する規定はありません。高温で磁粉探傷試験を行う場合、被検体の温度が250℃の場合には、非蛍光磁粉(白色)による乾式法を適用するのが一般的です。しかし、乾式法は湿式法よりも検出性能が劣るため、溶接施工途中の中間層の検査に主として適用されており、溶接最終表面の検査には検出感度の高い湿式法が一般に適用されています。

湿式法の場合、日本の探傷メーカー製品の多くは、70℃程度以下の温度であれば性能上の問題はないと思われます。すなわち、70℃以下であれば、磁粉の性能劣化を生じることはなく、蛍光磁粉を用いたときに要求される蛍光係数及び蛍光安定性に影響を及ぼすこともないと思われます。基本的には検査液の分散媒の沸点以下であることが絶対条件で、溶剤を分散剤に用いる場合は引火点よりも十分に低い温度で使用する必要があります。また分散媒の沸点以下の温度であっても、検査中に分散媒が急激に蒸発して検査液の濃度が変化することを避ける必要があります。実際の検査では、さらに作業中の安全面を考慮する必要があり、試験面の最高温度は40〜50℃程度とするのが適切と考えられます。なお実際の検査に当たっては、標準試験片などを用いて、きずの検出性能として要求される条件を満足していることの確認が重要です。

今回相談いただいたMTではありませんが、参考情報としてPTについて補足します。浸透探傷試験(PT)を規定したJIS Z 2343-1:2001では、「試験面の温度は、通常10〜50℃の範囲としなければならない」と規定しています。これは、10℃より低い温度における溶剤、速乾式現像剤の揮発遅延、エアゾール使用時の圧力低下、試験体表面での結露、凍結などを配慮したもので、50℃を超える温度では、探傷剤の乾燥、高速蒸発、染料の分解による性能劣化などを配慮して規定されています。これを受けて、JIS Z 2343-5:2012(ISO3452-5:2008のIDT)及びJIS Z 2343-6:2012(ISO 3452-6:2008のIDT)に、それぞれ50℃を超える温度でのPT及び10℃より低い温度でのPTに関する規格が制定されました。特に、高温の場合、JIS Z 2343-5:2012では、探傷剤製造者が50℃ごとの試験温度(例えば、50℃、100℃、150℃・・)で格付け試験を行い、通常の温度で実施された比較探傷剤と同等の試験結果が得られることを要求しています。すなわち、探傷剤メーカーが保証する範囲で使用可能となります。


(WE-COM会員のみ)