株式会社 ノビテック
穐 近 明
1. はじめに
ガスシールドアーク溶接の可視化においては、高輝度なアークやヒューム等の影響により、溶融部分の観察を行うことは非常に困難である。一般的にはバンドパスフィルタやNDフィルタを使用し、アーク光を減衰させて溶融部分の可視化を行うが、全体的な輝度が落ちてしまうため、アークによる発光部以外が暗くなってしまい、鮮明な画像を得ることが難しい。本稿では可視化用レーザ照明を用いた最新の溶接可視化手法に関して記述する。
2. 可視化の仕組み
溶接現象の可視化においては、いかにアーク光やヒュームの影響を低減できるかが鍵となる。バンドパスフィルタを使用した撮影の場合、アークの発光が比較的少なく且つカメラの感度のある950nm近辺の狭帯域の波長を撮影する場合が多いが、それでもその影響を完全に排除することは困難である。図1は、バンドパスフィルタを用いてマグ溶接を撮影した画像であるが、アーク光周辺の状況はどうにか可視化できるが、凝固部分やその他周辺部分の可視化を行うことは難しい。
図1 バンドパスフィルタを用いたマグ溶接の可視化画像
そこでアーク光を低減し、かつ周辺部を鮮明に可視化するためには、効率の良い照明が必要となる。具体的には狭帯域の波長で出力の強い照明が必要となるが、一般的なハロゲン照明やメタルハライド照明では発光波長がブロードであるため効率が悪い。そこでLEDかレーザの選択となるが、出力の点でレーザが最適と言える。
実際の撮影においては、まずアーク光の入射をカットするために、カメラレンズにレーザの波長のみを透過するバンドパスフィルタを装着する。そこに可視化用レーザ照明を照射することにより、相対的にアーク光のエネルギを抑えることができ、溶融部及び周辺部の鮮明な可視化が可能になる。図2に、アーク光波長感度特性と使用するバンドパスフィルタの波長幅との関係、およびフィルタを通して得られるアーク波長感度特性と可視化用レーザの波長特性の関係を示す。バンドパスフィルタでカットされない波長領域を緑色で示した。
図2 アーク光波長感度特性およびバンドパスフィルタと
可視化用レーザの波長特性
また、カメラの露光時間を極力短くし、その露光のタイミングで可視化用レーザ照明をパルスで照射することでアーク光の入射を低減でき、照明であるレーザの発光のみを効率よくカメラで捉えることができる。バンドパスフィルタのみを用いて撮影した画像(図3)と、バンドパスフィルタ+可視化用レーザ照明を用いた画像(図4)の比較を例示する。両画像ともレーザ溶接の可視化を行ったものだが、図3ではレーザ誘起プラズマやプルームなどが邪魔をして溶融部及び周辺部が鮮明に確認できていない。また、プラズマ光も強いため溶融部が白く飽和してしまっている。図4では相対的にプラズマやプルームの光を低減でき、溶融部のスラグ流動や、ビードの凝固状況及び母材の表面状況まで鮮明に捉えることが出来ている。
図3 バンドパスフィルタのみで撮影した |
図4 バンドパス+レーザ照明で撮影した |