株式会社 神戸製鋼所
溶接事業部門 技術センター
鈴 木 励 一
1. はじめに
大型の建築物に用いられる柱の構造様式を図1に示す。これらの内、鋼のみを材料として用いる鉄骨造(S造)形式は、耐震性に優れ、設計上断面積が小さくて済むことから空間の利用自由度が高い、リサイクル性にも富む、といった利点により、高層ビルや工場建屋などの構造部材として広く用いられている。日本では優れた品質の鋼材が生産、流通するという技術的背景もあり、世界で最も鉄骨造形式が多く採用され、かつ技術進歩が進んでいる国となっている。
鉄骨造形式の大部分は溶接によって接合され、板厚も比較的厚いことから、建築鉄骨業は国内における溶接材料の最大消費産業になっている1)。
溶接に関係する鉄骨造としての技術開発テーマは、無論、地震国であることから耐震性向上を主眼とした継手品質とデザイン設計があげられるが、一方、工期短縮、品質安定化、コストダウンといった生産技術的テーマとして、自動化と高能率があげられる。本論では、近年の著しい生産技術的進歩をもたらせたロボット化に象徴される、溶接の自動化と高能率化動向について述べる。
図1 大型建築物における柱の様式
2. 柱-梁接合形式と、生産技術への影響
鉄骨造において、柱と梁の交差部を取り付けるデザインには大きく分けて(a)梁貫通形式(通しダイアフラム形式)と(b)柱貫通形式の2つがある。(図2) これらのデザインの違いは、柱材の生産技術に決定的な違いを与えることになった。諸外国では、柱を分断しない(b)の柱貫通方式が主に採用されているが、日本では(a)の梁貫通方式が多くなっている。その大きな理由は以下の2点である。
なお、(b)の柱貫通方式は今もロボット溶接化が難しく、ほとんど適用されていない。
このロボット溶接化が可能かどうかの違いによって、大きな製造コスト差が生じ、(a)梁貫通方式が躍進することとなり、そして、鉄骨製造業者も溶接ロボットを先行投資的に大量導入した会社が価格競争力を高めることになった。これはパソコンや液晶テレビなどと同じ、「モジュール化」革命が鉄骨建築にも起きた、と言えるだろう。
図2 柱と梁の接合形式