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建築鉄骨の自動・高能率溶接技術の進展

4) 低スパッタ溶接システム

上述したように、鉄骨溶接システムは炭酸ガスアーク溶接法がほとんどである。しかし、炭酸ガスアーク溶接には最大の短所として、スパッタが非常に多いという問題がある。その原因は、炭酸ガス(CO2)はアーク雰囲気で乖離し、熱的ピンチ力20-21)を発生することで、アークを緊縮させ、集中性を増す代わりに、溶滴を持ち上げ、大粒かつ離脱不安定化させるためである。これは溶滴移行の分類としてグロビュール移行あるいは反発移行と呼ばれている22-23)(図15)。

図15 グロビュール移行とスパッタ発生の模式図

スパッタが多いと、ガスシールドノズルを閉塞させてシールド不良となり、ブローホールなどの気孔欠陥を発生させる、チップ先端を詰まらせて溶接をストップさせる。この結果、製品品質を劣化させることに加え、付着したスパッタの除去に多大な労力を費やすことにより、コストアップに繋がるといった弊害を引き起こす。そこで、シールドガスはCO2のままに、スパッタを激減させる溶接法が近年開発され、普及してきている。これは、REGARC™(レグアーク)と呼ばれる機能である24-25)

REGARC™は電流と電圧を急速に上下させるパルス溶接法26-27)の一種である。一般的なパルス溶接法は、矩形波または台形波を一定周期で繰り返すが、REGARC™では複雑な形状と共に、可変周期制御によって、従来制御困難とされたグロビュール溶滴移行において、溶滴の動きのベクトルを常に下向に制御することができる。したがって、溶滴は飛散することなく、常に溶融池に移行して、スパッタは発生しなくなる(図16)。

図16 REGARC™のメカニズム

REGARC™を実現する直接的システム要素は溶接電源であるが、それだけでは不足であり、特殊な溶接トーチの動きとの協調制御が欠かせない。したがって、ロボット専用の機能となっている。さらにまた、溶滴の溶融特性を最適範囲にするために、溶接ワイヤの化学成分等を最適化させたREGARC™専用溶接ワイヤとの組合せが推奨されている。このように、REGARC™はロボット、溶接電源、溶接ワイヤが一体となったシステムとして構成されており28)、そして動作保証されている。 (図17)

図17 REGARC™鉄骨溶接システム

高速度ビデオで捉えたREGARC™の溶滴移行を動画5に、スパッタ飛散の比較を動画6, 7に示す。また、溶接後の製品およびシールドノズルへのスパッタ付着状況を図18に示す。

動画5 高速ビデオ撮影による従来炭酸ガスアーク溶接と
REGARC™の溶滴移行の比較

 

動画6 従来炭酸ガスアーク溶接と
REGARC™のスパッタ飛散の比較(1)

 

動画7 従来炭酸ガスアーク溶接と
REGARC™のスパッタ飛散の比較(2)

 

図18 従来炭酸ガスアーク溶接とREGARC™の製品
およびシールドノズルへのスパッタ付着状況の比較


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