6.2 内ダイアフラム溶接の高能率化
内ダイアフラムとスキンプレートの溶接には、一般的に図30に示す非消耗式エレクトロスラグ溶接法が用いられている。姿勢は立向上進である。その溶込み形状の一例を図31に示す。
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図30 非消耗式エレクトロスラグ溶接法による |
図31 非消耗式エレクトロスラグ溶接法を用いた |
エレクトロスラグ溶接法は十分に高能率であり、現状以上の高能率化はあまり検討されていない。むしろ、超大入熱となるため、母材熱影響部(HAZ)や溶接金属の機械的性能が劣化しやすい問題がある。したがって、従来の能率を維持したまま、低入熱化する手段が研究されている。その一つがノズル先端のチップを曲げて取り付けることで方向性を持たせ、さらに比較的ゆっくり回転させるノズル回転法エレクトロスラグ溶接である53)(図32)。エレクトロスラグ溶接は溶融スラグ層の対流が溶込み深さの支配要因となっている。そこで、ノズルに方向性を持たせることで、開先面近傍の対流を強めることで、深く溶融させるのが、本法の思想である。本法を適用した断面マクロ写真の一例を図33に示す。従来の溶込み形状よりも扁平で、断面積が小さいことがわかる。
図32 ノズル回転法エレクトロスラグ溶接の機構53)
図33 ノズル回転法エレクトロスラグ溶接により得られた溶込み形状の一例53)
以上、本章では柱貫通方式の代表である溶接組立箱形断面柱の製作に関する多種の新技術を紹介したが、5章で紹介したように梁貫通方式の鋼管柱の製作が急速にロボット溶接化しているのに対し、未だ潮流となる高能率生産技術は定まっていないというのが実態である。今後もしばらく試行錯誤が続くと思われる。
7. 現地施工の溶接技術
現地では(a)溶接対象部が移動していく、(b)溶接長が比較的短い、さらに(c)足場の安定性が保ちにくいといった特性から、大きなロボットや溶接装置を適用し難い。したがって、今もほとんどが人手による半自動溶接によって施工され、自動化、高能率化は進んでいない。しかし、一部では小型・軽量の直角座標形溶接ロボットを使って、現地での自動化と溶接高品質化を狙った取組みが行われている55-59)(図34)。
図34 直角座標形溶接ロボットを用いての、
現地を想定した柱と梁フランジ接合部の上向姿勢溶接55)
8. まとめ
建築鉄骨の代表的構造および工程毎の、自動化、高能率化技術の動向を述べた。当分野の溶接技術は、日本が(a)地震国であり、(b)鉄鋼技術大国であり、(c)ロボット大国でもある奇跡的な背景によって育まれてきた、世界でも比類無きものである。 長期的展望として、高齢化と人口減少によって、溶接士の確保が益々難しくなることは間違いなく、さらなる自動化、高能率化の検討、実用化が進んでいくものと思われる。逆に、鋼管柱の進展のように、自動化しやすい構造設計の開発も望まれる。