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第8回

相談例23.重量物吊り具の溶接後熱処理

重量物吊り具の製作において、過去に2回、母材としてSM490B及びSM400Aを使用し、初層ティグ溶接と後続の炭酸ガス溶接を行い、応力除去のため主要部の溶接後熱処理(PWHT)を本溶接終了後に同一場所にてガスバーナー加熱で加熱温度500℃、保持時間40分で実施しました。

今回も同じものを製作するのですが、客先から、前回までのガスバーナー加熱後の温度保持の保温対策等で手間がかかるので、熱処理メーカーに送り炉内熱処理に変えたいとの要望があった。PWHT条件は保持温度610℃、保持時間3時間、徐冷です。なお、材料入手が間に合わず母材はSN490B+SM400YA、SN490B+SN490Bに変更になります。

これらについて、妥当性の確認ができません。過去の実績についても、明確な根拠がないのですが問題は発生していない。過去のPWHTが正しかったのか、熱処理メーカーから提示された条件で問題がないのかについてご教示ください。

回答

1. 以前の溶接後熱処理は正しいのか否か?

貴殿が採用されたガスバーナー加熱の加熱温度500℃、保持時間40分は、適用法規及び溶接部の厚さは不明ですがJIS、ASME等の一般規則には合致しておりません。この加熱温度及び保持時間では残留応力の除去等には不適切です。JIS Z 3700:2009の解説にはJIS、ASME、JSME、EN等の後熱処理温度、最小保持時間、保持温度低減に対する最小保持時間の比較が記載されています。P1鋼では ENのボイラーが550℃以上ですが、その他の規格は593- 595℃以上です。 保持時間は適用板厚に応じて選定する必要があります。

また、適切なPWHTを行なうために加熱速度及び冷却速度が規定されています。ガスバーナー加熱法でこれを遵守することは一般に難しいのではないかと推測されます。適切な数の熱電対で測定し、温度曲線を記録されているのでしょうか?

過去の実績から問題は発生していないとのことですが、溶接構造物を製作する上でその施工法がまず適用法規に合致していることが必須条件です。ご確認ください。

 

2. 熱処理メーカー提案の溶接後熱処理条件で問題ないか?

熱処理メーカーの「推奨条件:保持温度610℃、保持時間3時間、徐冷」は妥当なものと判断されます。適用鋼種がP-1材ですので、規定値(下限温度)は一般に595℃ですが、炉内温度のばらつき等を配慮し、これより高めに狙うのが一般的です。

また、PWHTは熱処理炉で全体熱処理するのが基本です。ガスバーナー、電気誘導加熱等による局部加熱は現場での全体熱処理が物理的に困難な場合に限って行なわれるものです。局部熱処理では大きな温度差が生じやすいために溶接残留応力の除去、温度管理等で全体加熱と比較して不利です。したがって、ガスバーナー加熱を炉内熱処理に変更することはより安全な方法であり推奨できます。

さらに、加熱温度及び保持時間については、母材の機械的性質がこの熱処理を行なっても問題ないことの確認が必要です。特に今回使用された鋼材SN490Bは建築構造用のものであり、PWHTを実施することを前提に製造されたものではありません。PWHT条件によっては引張強さ等がJIS規格値を満足できない場合が発生します。このため、PWHTをn回(手直し回数)実施した後の機械試験記録を記載したミルシートが品質保証上必要になることに留意してください。

(材料発注時にこの条件での機械試験を要求するか、追加でPWHT後の機械試験を第三者機関で実施してもらうことが必須となります。熱処理記録、熱電対の校正記録も添付することが望まれます。)


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