相談例26.SUS304のTIG溶接での溶加棒の仕様
配管SUS304TP-Aのティグ突合せ溶接(V開先)において、溶加棒として本来の仕様であるYS308(SUS304用)に替えて、YS316(SUS316用)を使用した場合どのようなことが生じるか教えてください。化学成分としてMoが含まれたことに冶金的に何か変化があるのでしょうか。
回答
まず、冶金面からの見解です。
① 溶接施工時の問題の発生は少ない。
溶接金属の組織としては、溶接材料がYS 308の場合と変わりなくオーステナイトに数%フェライトを含んだ組織となり、高温割れの発生の危険はほぼありません。
② 溶接継手部の強度は、YS 308と同等と判断されます。
機械的性能はYS 308による溶接金属とほぼ同じと考えてよく、継手の引張強さ、延性にも問題がありません。シャルピーの衝撃性能はややYS 308に劣りますがティグ溶接金属ですので実用上支障はありません。
③ 耐食性も同等以上と判断されるが、使用環境によって判断が分かれます。
YS 316溶接金属はMo入りなのでPRE値(Cr%+3.3Mo%+16N%)はYS 308より大きく、一般的には耐食性が高いとの評価となります。但し、Moがあることは硫酸などの非酸化性の酸の環境には良い効果がありますが、硝酸のような酸化性の酸では耐食性が悪くなる傾向にあります。溶接部が使用される環境により、判断が分かれます。
以上の様に、冶金的には問題は少ないが、本来の仕様である溶接材料を使用しないということになり、品質管理システム上(WPS承認、溶接施工管理)の問題があります。溶材変更については、客先の承認が必要となります。