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第10回

相談例28.TS 930MPa級リング状鍛鋼品,SFCM930Rと板巻鋼管,SM570の溶接

SM570,大径鋼管(外径1200 x長さ4480 x 厚さ36mm)の両端にSFCM 930R,リング状鍛鋼品(外径1200×長さ576 x 厚さ106mm)をマグ溶接法(ソリッドワイヤ)で突合せ溶接する場合の溶接材料と施工管理のポイントをお教えください。

リング状鍛鋼品FCM 930Rの端部はテーパー加工長さ150mmで板厚36mmに減厚し、SM570鋼管との開先形状は内外面共角度60°、深さは内面12mm、外面22mmで、ターニングローラに乗せ鋼管を回転させながら溶接することを考えています。内径が小さく、人が管内に入り内面溶接施工することが出来ないので、管端から倣い付きアーム溶接機で対処可能か検討していますが溶接管理が難しく苦慮しています。

なお、溶接継手に対する性能は、継手強度がJIS G 3106 SM570の要求を満足し、かつ非破壊検査(RT)要求に合格することが求められています。継手の硬さとじん性及び溶接後熱処理(PWHT)に対する要求はありません。

回答

リング状鍛鋼品,SFCM930R(C≦0.48、0.15〜0.35Si、 0.30〜0.85Mn、 P,S≦ 0.030、0.90〜1.50Cr、 0.15〜0.30%Mo、TS 930〜1080MPa)はTS 930 MPa級高張力鋼に相当するもので、最も注意すべき管理ポイントは水素に起因する低温割れ対策です。厚物のTS 930 MPa級高張力鋼の溶接と同等の割れ対策が必要です。以下に各項目について説明します。

「溶接材料の選定」

1) 溶接材料は、強度の低い材料(母材)に合わせる。

2) SM570級のマグ溶接材料(例: G57A1UC21又は G59JA1UC3M1T:旧YGW21)を選定する。

3) 詳細は溶材メーカーと相談してください。


「低温割れ対策」

1) ポイントは、予熱温度の設定と直後熱の実施です。予熱温度は一般に150℃以上でかつ直後熱(200〜350℃ x 30分以上)を併用する。直後熱は極めて有効であり、確実に実施する。温度は高いほうが望ましい。可能であれば、モックアップ試験を行い、割れ防止の予熱及び直後熱温度等を確認する。

2) 溶接中断(裏はつり作業含む)時にも、溶接部に吸収された拡散性水素を低減するために直後熱を行う。

3) リング状鍛鋼品が大単重品であり、予熱及び直後熱範囲はできるだけ広くする。パネルヒータが推奨されます。なお、ガス加熱の場合では同等の効果が得られるようにリング全体を一様に加熱するようにする。

4) 水素減となる開先部の油類は溶接前に完全に除去する。

5) できるだけ拡散性水素の少ない溶接法が推奨されるのでソリッドワイヤを用いたマグ溶接は適切です。

6) 溶接完了後には非破壊検査(RT及びUT)で欠陥がないことを確認する。TS 930 MPa級高張力鋼の溶接割れは横割れの場合が多いので、UTの探傷方向にも注意する。


「ぜい性破壊対策」

1) リング状鍛鋼品,SFCM 930Rの溶接HAZのじん性が低いので、最終層はテンパビード法による焼き戻し効果でじん性の回復を図る。

2) 輸送中及び使用中のぜい性破壊を避けるためにも、アンダカットやオーバラップがないように仕上げる。


「施工管理一般」

1) 継手部の裏はつりを行う場合には丁寧に行うことが必要です。開先形状からは内面側になると思われますが、予熱パス間温度の高い作業環境を考えると外面からのほうがよい。例えば、①内面3〜4パス、②外面裏はつり、③外面5〜6パス、④内面仕上げ、⑤外面仕上げ。

2) 裏はつりをエアアークガウジングで行う場合は、開先部の清掃を行い炭素が残らないように注意する。

3) 母材(SFCM930R側)希釈率が高くならないように配慮する。

4) 管端から倣い付きアーム溶接機でマグ溶接するとアーク管理が難しいとのことであれば、施工管理が容易なサブマージアーク溶接法の適用を検討されてはいかがでしょうか?この場合でも、拡散性水素料の低いフラックスを選定する必要があります。また、最大溶接入熱量を適切(例えば、40kJ/cm)に管理して下さい。


(WE-COM会員のみ)