相談例30.円筒胴長手溶接部に直交する溶接
アンモニア冷媒仕様のシェルアンドチューブ式凝縮器(胴体は炭素鋼鋼管:STPG370E,製管方法:電気抵抗溶接、寸法:350A Sch20、全長:2300mm)で、胴体内部の約半分の箇所にチューブ(約60本)が入ります。胴体内部の中央管板(バッフルプレート)(SS400)を、片側3か所のタック溶接で取り付けています。溶接は被覆アーク溶接の下進法で、ビード長さは25mmです。
これまで長手溶接(電気抵抗溶接)継手に交差するような溶接は避けるべきと教えられてきました。その理由として、長手溶接継手に交差する溶接を行えば、高い残留応力範囲が広がり、ぜい性破壊を起こす原因になるからと考えたのですが、この解釈で正しいのでしょうか。教示ください。
回答
溶接を行うと、溶接部には溶接残留応力(通常、溶接線近傍は溶接線方向に材料の降伏点レベルの高い引張残留応力、溶接線直角方向にも低い引張残留応力)が生じます。また、溶接部には溶接欠陥が生じる恐れがあり、高い溶接残留応力が影響して、溶接欠陥から破壊(主としてぜい性破壊)が生じることもあります。そのため、できるだけ溶接線の交差および溶接線の近接を避けるのが原則です。
相談者の理解で間違いありません。補足すると次のようになります。
1. 溶接線が近接すると、溶接残留応力が重畳して、2つの溶接線間の溶接残留応力が高くなり、引張残留応力の範囲が広くなります。これを避けるために、ASME Sec Ⅷ Div 1 UW-9 (d) (JIS B 8265 およびJIS B 8267も同じ規定)では、長手継手が周継手と交差する点から、その両側 4in(100mm)を放射線透過試験する場合を除き、隣接する長手溶接継手の中心間距離を厚い方の板厚の5倍以上離すように規定しています。
2. 長手溶接に直交する円周溶接を行うと、円周溶接による溶接残留応力により、長手継手には溶接線直角方向に降伏点レベルの高い引張残留応力が付加されることになります。このため、円周溶接と長手溶接の交差点近傍は破壊の危険性が高くなり、注意が必要です。
3. 一般に圧力容器の製作では円周溶接を避けることはできませんが、相談のケースは円周全線の溶接でなく、片側3か所のタック溶接ですので、長手溶接線から離れた位置で、円周のタック溶接を行うのが原則です。