相談例31.フェライト系ステンレス鋼の溶接材料の選定
フェライト系ステンレス鋼を使用した厨房機器のティグ溶接では、例えばSUS430の場合430系又は430Nb系溶接材料が推奨されます。この組合せでは、シェフラ組織図で溶接金属はフェライト単相になり、粗粒化やぜい化などによる問題が発生し、溶接性が悪いと思われます。フェライト系ステンレス鋼溶接での溶接材料の選定についてお教えください。
回答
フェライト系ステンレス鋼は、共金系の溶接材料を使うとご指摘の通り、粗粒化やぜい化などによる問題が発生して溶接性の悪い材料です。SUS430の溶接で430系溶接材料を使っているのは、ご相談の厨房機器のティグ溶接も相当すると思われますが、自動車のマフラーなど板厚が薄く拘束が厳しくない対象物で、熱膨張係数の違う溶接材料を使用すると使用中の温度変動が大きいために大きな熱応力が発生すること、及び共金系溶接材料の経済性からです。使用環境などからどうしても共金系の溶接材料を使わなければならない場合には、Nb、Ti、Alなどの炭窒化物を活用して結晶粒微細化を達成している430Nb系溶接材料を選択すれば、ある程度のじん性は確保できます。
フェライト系ステンレス鋼の溶接では、用途・使用環境・板厚などによって溶接材料を選択する必要があります。例えば、生活環境を前提とした、建築や土木ではシェフラ組織図の安全域内に収めるオーステナイト系のSUS309溶接材料が推奨されています。一方、SUS309のぜい化が懸念される高温環境では、Ni基合金のインコネル82が選択肢になります。
なお、 Ni基合金のインコネル82系を選択する場合、ティグ溶接では十分な高Crが確保できますが、その被覆アーク溶接(182系)ではCr量が低いため使用環境によっては、SUS430に比べて若干ですが耐食性が劣る可能性があるので留意する必要があります。 高耐食性が要求されるケースでは、耐食性が同等のオーステナイト系の溶接材料(例えばSUS444の溶接では316L)が、塩化物応力腐食割れが懸念されるのであればインコネル系が用いられます。応力腐食割れが懸念される接液部位のみを共金系で溶接し、残りの溶接部はオーステナイト系の溶接材料で溶接し溶接部の延性・じん性を確保するという方法がとられる場合もあります。
フェライト系ステンレス鋼の溶接では、使用環境などに応じて適切な溶接材料を選定して下さい。