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第11回

相談例32.軟鋼製圧力容器のCO2アーク溶接におけるバックシールドについて

軟鋼製圧力容器の製作にCO2溶接を用いています。接合・溶接技術Q&A1000(Q10-7-11)には、ステンレス鋼の裏波溶接のバックシールドに窒素が適用可能と書かれています。軟鋼においてもステンレス鋼と同様に裏面酸化を防止するためのバックシールドとして窒素の適用が可能でしょうか。またステンレス鋼の場合、窒素が溶接金属に悪影響を及ぼさない理由を教えてください。

回答

軟鋼の溶接において、バックシールドとして、窒素が一般に用いられていない理由は、ポロシティの発生や溶接金属の脆化が懸念されるからです。酸化防止のバックシールドに窒素が使えるかどうかに対しては、窒素をバックシールドに用いても初層の裏波溶接が健全かどうかの判断によります。

軟鋼の片側溶接では、通常、裏側のバックシールドは行われていません。裏側が大気であっても、溶接部は健全です。接合・溶接技術Q&A1000のQ10-7-9には、配管裏波溶接で、炭素鋼やCr量の低いCr-Mo鋼の片面TIG溶接においてバックシールドは行われていないこと、また、石油化学プラントの初層TIG溶接では、炭素鋼および1.25Cr-0.5Mo鋼まではバックシールド無しで、2.25Cr-1Mo鋼以上についてはバックシールドを行っていると書かれています。

以上のことより、軟鋼の初層CO2溶接で、酸化防止のバックシールドに窒素を用いても問題ないと推測できます。関係者間で要求される性能を確認した上で、採用を検討されることをお勧めします。

なお、バックシールドの窒素圧力が高くなり過ぎると、不具合を生じることがありますので、窒素圧力に注意して下さい。オーステナイト系ステンレス鋼の溶接で、裏波溶接のバックシールドに窒素を用いている例がありますが、それはオーステナイト系ステンレス鋼では、凝固時の晶出相にγ相が含まれる事およびCrが添加されているために窒素の溶解度が大きくなり、ポロシティの発生が少ないこと、さらに窒素はオーステナイト形成元素で窒素が入って強度が高くなるものの、機械的性質が大きく損なわれることがないためです。この場合、事前に問題がないことを十分に検証しています。

 


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