相談例34.アルミニウム合金の溶接割れ
輸送機器のアルミニウム合金製フレーム(7204の突合継手及び7204とAl-Si-Mgダイカスト品の重ね継手)をミグ溶接し、ブローホールなどが発生した場合には、溶接完了8分〜10分後にティグで補修溶接しています。ミグ溶接施工時には割れは認められませんが、ティグ溶接後にミグ溶接金属に微小割れが発生することがあります。使用溶材は、ミグ溶接にはA5183WY、ティグ溶接にはA5183BYです。微小割れ発生の原因と対策をお教えください。
回答
1. 割れの原因
この割れは、ティグ溶接時の熱影響によるミグ溶接金属の高温割れ(再熱時の液化割れ)である可能性が高いと推測されます。アルミニウム合金の溶接の場合、合金成分構成によって高温割れ感受性が高くなることがあります(図1)。母材7204合金のMg量1~2%に対し、ミグ溶接材料A5183WYのMg量は4.3~5.2%であることから、母材希釈が大きい場合にはミグ溶接金属のMg含有量は1.5~3%弱になることが予測されます。この場合のミグ溶接金属は、図に示すようにMg量が割れ感受性の高い領域になります。

図1 アルミニウム合金溶接部の高温割れ感受性(溶接・接合技術総論)
2. 対策
- 溶接金属のMg量をEPMAなどで確認して、割れ感受性の高い成分領域か否かを確認する。
- Mg量が低くなっていることが確認されたら、できるだけ希釈を抑える開先形状と溶接条件を選定する。
- ミグ溶接金属のMg成分を高めるために、溶材をA5356、A5554などに変更する。
- 一点での点溶接だと溶融池周辺の膨張により熱影響部への開口応力が大きくなるので、ビード幅の3~5倍程度の長さの流し溶接により、ティグ補修溶接を行う。
なお、ダイカスト品(押出形材)では、母材熱影響部の割れが発生することがあります。押出形材では、押出し能率を上げるために、ビレットの温度を高め、高速で押出す場合があり、摩擦熱からさらに高温となった状態で押出されると再結晶によって粗大化が生じます(図2)。粗大化したビード直近の熱影響部では粒界偏析物による粒界液化を生じて、高温割れ(液化割れ)を引き起こす可能性があります。また、母材の熱処理が適切でない場合も再結晶によって粗粒化が生じることもあります。
この場合の対策は以下の通りです。

図2 粗粒化した押出形材のミクロ組織例
- 材料の断面を偏光顕微鏡などで観察して結晶粒の大きさを確認する。ミリ単位の大きさとなっていれば、上記熱影響部の高温割れの発生の可能性が高い。この場合、材料メーカに結晶粒度のコントロールした材料を供給してもらう。