WE-COM 最新号トップへ(WE-COM会員のみ) | この号のトップへ | WE-COM バックナンバートップへ

第12回

相談例36.アミン環境下で長期間使用された材料の溶接施工について

アミンアブソーバ(硫化水素混じりのガスをDEA(ジエタノールアミン)で吸収)の塔頂に設置されているデミスターの改造工事を検討しています。アミンアブソーバの使用条件等は次の通りです。

  1. アミンアブソーバの使用期間は約50年。DEA(ジエタノールアミン)の濃度は20%程度で、運転温度は40℃。
  2. 製作時には溶接後熱処理(PWHT)を実施せず。運転温度が低いために溶接後熱処理を実施しなかったと考えます。
  3. 塔の材質は炭素鋼で、内部の定期検査結果では、SCCなどは発生していません。

この改造工事で、既存のインターナル(炭素鋼)を部分的に切断し、新規の部品(炭素鋼)を溶接する計画です。溶接時および使用中におけるリスクを軽減する為に、脱水素処理や残留応力軽減に対応する予熱・溶接後熱処理が必要と考えています。この溶接施工において配慮すべきことを教えて下さい。

回答

アミンに関する事故例としては、1984年にシカゴの製油所で発生したアミン吸収塔の爆発があります。この事故については、溶接・接合技術総論の6.7章6.7.4(2) 「現場溶接補修部を起点とした破壊爆発事故」(P.595)に、事故状況と、原因がまとめられています。要点は下記の通りです。

  1. ASTM A516 Gr.70(炭素鋼)で製作されたアミン吸収塔が、粗製LPG+H2S+20%MEA(モノエタノールアミン)の環境下で、運転圧力1.4MPa、運転温度38℃で使用され、約14年後に爆発事故を起こした。このアミン吸収塔の下部胴の一部は、運転開始から約4年後に、ラミネーション対策で現場補修溶接がされており、補修溶接後10年経過して事故が発生した。
  2. 事故の破断部は下部胴の補修溶接部であり、溶接熱影響部の硬さが最高390〜490HVと高いこと、および割れ形態から割れ原因は、H2S環境下の硫化物応力割れ(SSC)で、アミンSCCではないと判断された。
  3. 対策は溶接部の硬さ管理、PWHTの実施、耐HIC鋼(Sが0.003%以下)を採用となっています。

硫化水素とアミンの環境下に曝された炭素鋼溶接部には、アミンSCC、硫化物応力割れ(SSC)および水素誘起割れ(HIC)が生じる恐れがあります。これらの割れについては、溶接・接合技術総論の2.9節(P.207〜209)および6.6節(P.574、576〜578)に記述されていますので、参考にして下さい。

溶接にあたっての留意点をまとめますと次の通りです。

  1. 運転中に炭素鋼中に侵入した水素を除去するために、脱水素処理((300〜400℃)×1時間程度)を実施。
  2. 溶接に当っては溶接部の硬さ管理(Max.235HB、NACE(アメリカ腐食技術者協会)には溶接金属200HB以下、HAZ248HB以下もあります)が重要であり、事前の施工法試験で確認する必要あり。
  3. PWHTを実施。
  4. HIC防止のために、できれば耐HIC鋼を採用。

炭素鋼の溶接としては、低温割れ防止に留意し、母材の化学成分、溶接法に応じた水素量等を勘案して、適切な予熱を行えば問題ありません。しかし、供用中に腐食環境下に曝されますと、種々の割れを生じる恐れがありますので、留意が必要です。

なお、対象のアミンアブソーバは定期検査で異常がないとのことですが、客先に状況をよく確認されることをお勧めします。


(WE-COM会員のみ)