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第13回

相談例37.水素ぜい化が懸念されるチタンの溶接について

石油精製プラントで、蒸留塔のオーバーヘッドコンデンサーにチタン製空冷式熱交換器を使用しています。このチタン製熱交換器は、運転温度が約145℃で、内部はナフサ、水分と塩素が含まれる流体環境(露点によって局部的に塩酸になると推定)にあり、これまで約20年使われてきました。過去の定期検査で問題は生じていませんが、将来、漏えいを生じないかと心配しています。もし漏えいを生じた場合には、プラグを挿入して、その周囲をシール溶接して漏れ止めを行う計画です。この場合にチタン管が水素ぜい化していても溶接できますか?溶接可能であれば、熱処理等も含めて、溶接施工にどのような注意が必要かを教えて下さい。

回答

チタンの水素ぜい化は、水素化物が析出し、この水素化物がもろい結果、応力集中が起こると容易に破壊が進行する事象です。すなわち、衝撃吸収エネルギーが水素吸収により低下します。チタンの水素吸収については諸説ありますが、水素ガス気流中においては160℃以上、塩酸および硫酸等の非酸化性の酸性溶液中でチタンが腐食する場合には100℃以上、水蒸気中においては300℃以上と報告されています。すなわち、チタンの水素吸収は、温度が高くてチタン自身が腐食する環境、水素ガス中および相手材が腐食して水素を発生する環境で起こります。

沸騰水型原子力プラント用全チタン復水器採用の検討において、海水側および蒸気側からの水素吸収について調べた結果では、蒸気側では炉心で発生する水素と支持管板の腐食によって発生する水素があるものの、100℃以下ではチタンに水素吸収はないとなっています。また海水側(カソード防食による海水の電気分解)に対しては防食電位の調整対策を取れば良いとなっています。そして、沸騰水型原子力プラント環境下で約15ヵ月間の実機検証試験が行われ、電気防食装置を設置しなくても、チタン冷却管は水素吸収しない事が確認されています。

相談のチタン製熱交換器は、運転温度が145℃ですので、水素化物はあっても軽微と推測されます。

水素化物を除去するには約800℃以上の加熱が必要で、さらにチタンが酸化しないように不活性ガス雰囲気あるいは真空中で加熱せねばなりませんので、水素化物の除去は困難です。炭素鋼やCr-Mo鋼を高温高圧水素環境下で使用した後、補修溶接する場合には侵入した水素放出のために脱水素処理が一般に行われますが、これは水素による低温割れ防止の為です。チタンでは溶接時に水素による低温割れは起こりませんので、わずかな水素化物が存在したまま、通常のTIG溶接を施工しても問題ないと推定されます。

プラグをシール溶接する場合、チタン管が汚れていると思われますので、溶接部表面のクリーニングに特に留意して小さなブローホールの発生を防いで下さい。また不活性ガスシールドを十二分に行い(2重シールドの採用等)、大気の混入を防止して下さい。チタンの溶接で一般的な注意事項を十二分に守ることが重要です。

下記文献を参考にして下さい。溶接施工にも役立ちます。

  1. 佐藤他 : チタン復水器管における問題点と対策、火力原子力発電、vol.28, No.6
  2. 鈴木他 : 復水器チタン冷却管の水素吸収とその防止対策、火力原子力発電、vol.28, No.1
  3. 田上他 : チタン管ーチタン管板のシール溶接、火力原子力発電、vol.31, No.6
  4. 藤原他 : 沸騰水型原子力発電プラントにおける復水器チタン管の水素吸収、火力原子力発電、vol.31, No.6
  5. 大槻他 : 全チタン復水器の耐食性と性能、火力原子力発電、vol.31, No.8


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