相談例38.溶接条件の適切性を評価するためのステンレス鋼溶接部の組織観察
ステンレス鋼(SUS304、SUH409Lなど)の溶接において、溶接条件の適切性を評価するために溶接部の組織観察を行っております。溶接部組織を観察して、どの程度の鋭敏化及び粗粒化で問題があるのかがよく分かりません。以下の項目についてご教授ください。
① エッチング液の選定
② 研磨仕上げの程度
③ 鋭敏化及び粗粒化の評価
回答
① エッチング液の選定
エッチングは単にエッチング液に浸漬する化学腐食と浸漬して電流を付与する電解腐食に大別され、材料、結晶粒径の明確化以外にも、狙いとする生成相の種類によって使い分けがあり多岐にわたります。
炭素鋼・低合金鋼にはナイタールが、ステンレス鋼には王水又はグリセリン王水が使用されます。塩化第二鉄水溶液は主に銅・銅合金に、10%しゅう酸水溶液はオーステナイト系ステンレス鋼の電解エッチングに、ビレラ液(塩酸+ピクリン酸)は9Cr鋼などの耐熱合金(マルテンサイト)に使用されます。
SUS304などの結晶粒径とδフェライトの観察が目的ならばナイタールかビレラ、王水です。粒界鋭敏化検出にはしゅう酸電解エッチングが多く用いられます。また生成相であるシグマ相の場合にはKOH電解エッチングや村上試薬があります。
このようにエッチング液の種類が多岐にわたるため、エッチング液の選定に当たっては各種エッチング液を用いたステンレス鋼などの溶接部組織観察事例が収集されている溶接学会溶接冶金研究委員会編「新版溶接・接合部組織写真集」(2013)を参考にしてください。
② 研磨仕上げの程度
溶接部の健全性を評価することが目的であれば、研磨は3μm仕上げでも十分観察できます。
③ 鋭敏化及び粗粒化の評価
鋭敏化の観察は、JIS G 0571(ステンレス鋼のしゅう酸エッチング試験方法)に従います。HAZは段状組織、混合組織、溝状組織の分類になります。普通のオーステナイト系ステンレス鋼304の通常のTIG溶接では多くの場合、溝状組織の鋭敏化を呈しています。大気に曝されているだけの環境なら溝状組織であっても何ら問題はありません。しかし、腐食環境によっては粒界腐食や応力腐食割れを生じるリスクもあります。従って、鋭敏化の許容範囲は使用環境によって決まるもので、厳しい使用環境下では溝状組織を不合格としています。一概にどこまでを合格とするかは決められません。
一つの目安としてJIS G0575(ステンレス鋼の硫酸・硫酸銅腐食試験方法)に規定の硫酸・硫酸銅(いわゆるストラウス試験)が鋭敏化の判定に便利です。この試験は所定の腐食液に長時間浸漬後、曲げ試験を行って粒界腐食による試験片表面での割れ開口の有無を目視にて判別し鋭敏化の有無を判定する方法で、組織による評価よりも判定が容易です。