神鋼溶接サービス株式会社
岡部 俊明 / 奥村 博子
1. はじめに
構造物はその用途に必要なだけの性能を備える必要があり、使用する材料の機械的性質を知る事は、構造物の設計において非常に重要な工程である。この機械的性質とは、材料の持つ外力による変形または破壊に対して抵抗する能力を定量的に表すものであり、それを調べる方法が材料試験である。材料試験には大きく分けると静的試験(一方向に連続的に負荷をかけて数分間で終了する試験)、衝撃試験(約0.1秒以内で終了するような試験)、疲労試験(既定の応力を繰り返し負荷し、その応力と破断までの繰り返し数の関係を求める試験)、クリープ試験(一定の応力を連続して負荷し、付加時間と変形量の関係を求める試験)などがある1)が、本稿ではその内の静的試験について、大要を説明していきたい。
静的試験においても更に何種かの試験方法があり、知りたい材料の性質によって適切な試験を使い分ける。ここでは、一般的によく使用される引張試験、曲げ試験および硬さ試験について述べる。
2. 引張試験
引張試験とは、試験片に引張荷重を徐々に加えてその荷重と試験片の変形の関係から材料の機械的性質を調べる試験である。
引張試験には図1に示すような、所定の平行部長さ、および標点距離を持つ試験片を用い、試験対象である材料の形状や寸法によってそれぞれの試験片を使い分ける。試験片形状はJIS等の材料規格に指定されており、試験実施者は多くの場合それに従うが、一般には試験片の平行部が長いほど破断伸びの値が小さくなる傾向にある2)。なお、2008年にJIS Z 3221(ステンレス鋼被覆アーク溶接棒)はISO 3581との整合化をはかり、引張試験片の標点距離が、従来の試験片の径の4倍から5倍に改正された。これに伴い、すべての鋼種の伸びの要求値が改正後の試験片形状に合わせて整合されている3)。また、極端に平行部の長い試験片では強度も小さくなることがある。
図1 引張試験片形状例
動画1 試験片の変形の様子
(図をクリックすると動画が再生します)
以下に、軟鋼母材を例にとり、図2に示す応力−ひずみ線図で引張試験の詳細を述べていく。
図2 応力−ひずみ線図
試験片を引張り始めると、荷重に比例して伸びていく。この領域での変形状態を弾性変形といい、荷重を除くと元の形に戻る。弾性変形では応力−ひずみ線図は直線を示し、この直線の傾きがヤング率(縦弾性係数: E)に相当する。また、応力−ひずみ線図の傾きがヤング率と食い違い始める点を比例限界という。
降伏点を超える範囲まで引張ると応力は急激に低下し、ほぼ一定の応力でひずみだけが増加するようになる。図2中に示すA点が降伏開始の最大応力で、上降伏点(σYU)という。B点を下降伏点(σYL)といい、A点を過ぎてからは変形に従って試験片表面にしわが生じる。これは、転位が結晶粒界を通過できずに溜まって、その応力集中によって他の結晶粒の変形が進行することで生じるものであり、リューダース帯と呼ぶ。また、軟鋼の引張試験で上降伏点が現れる理由の一つと考えられているのが、炭素や窒素などの侵入型元素が転位の位置に集まって作るコットレル雰囲気である。コットレル雰囲気が出来ると転位が動きにくくなるが、一度それを振り切ると転位が一斉に動き出すため一定の応力でひずみが増加するようになる。
前述のとおり、弾性変形の範囲においては、荷重を除けば変形は0に戻るが、さらに荷重を増加させていくと、弾性状態を維持できなくなり、除荷しても変形が残る。この変形を塑性変形と呼び、材料に塑性変形が残り始める時点を弾性限界という。一般的に、比例限界と弾性限界はほぼ一致する。さらに、塑性変形が増加すればするほどさらに塑性変形を与えるのに必要な応力が増加し、この現象を加工硬化と呼ぶ。
荷重を増やしていくと、やがて最大荷重点に達する。図2中においてはC点にあたり、このときの応力を引張強さ(σB)という。最大荷重点に達した後は、動画1に示すように試験片の一部が絞られ始め、やがて破断する(D点)。破断した二つの試験片を試験片の軸が直線状になるよう突合せて、標点距離の増分を求め、原標点距離に対する百分率として破断伸びが求まる。また、破断後の最小断面積を求め、原断面積との差の原断面積に対する百分率として絞りが求まる。これらは、材料の延性の評価指標として用いられる。
ところで、高張力鋼や非鉄金属などのように明確な降伏点が得られない材料もある。そのような場合、0.2%のひずみの位置から弾性変形の範囲の傾きと平行な線を引いて交差した点の応力を0.2%耐力(E点)として、降伏応力の代用とする。