相談例44.高速溶接と不整ビード
高速溶接ができない理由として、教科書1)では図1に示されているように“溶接電流と溶接速度を大きくすると、不整ビード(アンダカットあるいはハンピングビード)が形成されるため”と説明されています。また別の教科書2)には、不整ビードの形成過程の説明があり、ガウジング領域と凝固壁が記述されています。不整ビードに関して、次の2点を教えて下さい。
(1) ガウジング領域および凝固壁とは、どのようなものでしょうか?
(2) 大電流での溶接においては、どのようなメカニズムで、アンダカットおよびハンピングビードが発生するのですか?

図11) 溶接条件とビード形成
回答
(1) 図2に示すようにアーク圧力が大きくなると、溶融池の凹みが大きくなり、アーク直下に薄い溶融層のみの領域が露出します。この領域がガウジング領域です。さらにアーク圧力が大きくなると、ガウジング領域が拡大し、アーク直下後方のガウジング面の表層が凝固します。これが凝固壁です。

図22) アーク圧力が過大な場合の“ガウジング領域”と“凝固壁”の出現
(2) アンダカットやハンピングビードは、「溶融金属」と上記の「凝固壁」がうまく濡れないことが発生のメカニズムの基本となります。濡れないという現象は凝固壁に瞬時に薄い酸化膜ができることから生じます。
大電流のサブマージ゙アーク溶接やマグ溶接の場合の発生メカニズムは次の通りです。アークで母板が溶融した後、溶融池(以下、プールと呼ぶ)が凹み、固体金属面が露出します。アークで母板が掘られ(溶融され)、固体金属面が露出します。大電流、低アーク電圧ほどアーク圧力は、プールの底部に集中し、その部分の溶融金属はプールの底面で高速で後方に流されます。そしてプール後方では、溶融金属の流速が低下するため反転流となり、プール表面側でアークの方向に戻り、アークで掘られた溝を埋める形になり、側面から凝固が進行してビードが形成されます。しかし溶接速度が大きい場合には溶融金属量が少ないため、その溶融金属全体が強いアーク圧力でプール後方に押し流され、アーク方向に戻りきる前にそのまま凝固してハンピングビードが形成されます。アークで掘られた壁は溶融金属で濡れず、酸化した金属面(壁)となります。
アンダカットはハンピング現象の軽度のものです。上記で後方に流された溶融金属はプール内で反転しますが、アーク近傍までは戻ることができない場合には、アークで掘られた溝全体を溶融金属で満たすことができず、上述の露出面の一部が凝固壁となって残ります。すなわちアーク近傍の溝の表面の側面部分の一部が溶融金属で満たされる以前に冷却して凝固壁となったものがアンダカットです。
参考文献
1) 溶接学会・日本溶接協会編、溶接・接合技術総論、P.24、産報出版(2015)
2) 黄地尚義、溶接接合プロセスの基礎、P.158、産報出版(1997)
1) 溶接学会・日本溶接協会編、溶接・接合技術総論、P.24、産報出版(2015)
2) 黄地尚義、溶接接合プロセスの基礎、P.158、産報出版(1997)