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アレスト性とは?−アレスト試験

この時期以降、温度勾配型広幅引張試験の結果は、図9のように整理され、破壊力学的に解釈されることが一般的になった。つまり、実験結果としての亀裂長さと負荷応力条件を応力拡大係数として計算し「駆動力」とし、材料が保有する応力拡大係数を単位とする温度の関数である抵抗値「アレスト性」の大小比較により伝播継続が決定するとする考えである。発生してからこの地点まで停止しなかった理由は、低温に制御している領域であるため、駆動力よりもアレスト性が低かったためと解釈される。この解釈手法では、駆動力とアレスト性の間のエネルギーロスは一定であると仮定していること、駆動力の計算において動的応答を考慮する必要があるにも関わらず静的な計算式を用いていること(しかも二重引張試験やエッソ試験片とは異なる形状の補正係数を用いている)など、物理的観点では、無理のある要素も含まれており、ほぼ実験式と言って良いものだ。ただし、この整理は試験片の形状が一定でそれほど大きくない場合に、溶接構造に用いられるような範囲の鋼材にとって、かなり使いやすく精度の良い簡便式であることは間違いない。


図9 温度勾配型エッソ試験の「線形破壊力学的」解釈

時代を経るとともに、我が国発祥の二重引張試験はその煩雑性や試験の成功確率が高くないことによりエッソ試験に代わられるようになったが、この応力拡大係数方式の整理方法は日本で広く定着した。日本溶接協会の規格「WES136:低温構造用鋼板判定基準」が1961年に制定され使用されていたが、1983年の改正ではこれらのアレスト特性評価法が規格として正式に盛り込まれる形で改正された。また、後継のWES3003では最も多く実施される簡易じん性評価試験であるシャルピー衝撃試験結果との相関式が規格に示され、利便性が格段に上がった。広幅試験はアレスト性評価にとって最も良い評価手法であるが、一般に2000トン以上の大型試験機が必要となり、コストや納期を圧迫するという側面があるからだ。このシャルピ−衝撃試験による簡易評価方法は船舶のみならず低温貯槽、水圧鉄管など日本の大型溶接鋼構造物分野の広い範囲で安全性確保のために活用されている。日本のこうしたぜい性亀裂伝播停止技術および評価手法開発は、国内では極めて精力的に研究がなされ学会や委員会で多くの議論がなされるとともに、多くの優れた研究論文が発刊されたが、世界のメジャーなジャーナルで発表されることは少なく、世界的な認知度は低いままであった。

2000年頃から始まった大型コンテナ船の破壊安全性に関する議論の中では、船舶安全性についての国際的取り決めが必要になり、アレスト性評価法の国際化の必要性に迫られた。こうした状況を考慮し、日本海事協会、日本溶接協会鉄鋼部会での活動として、評価方法の標準化に取り組んだ。その結果、図10に示すように、2014年には国内規格WES2815「ぜい性亀裂アレストじん性試験方法」、2019年には国際規格ISO20064「Method of the determination of brittle crack arrest toughness, Kca」として標準化を果たした。これらの標準化活動では、これまでわが国の主要な試験機関で暗黙のうちに条件範囲が共通化していた内容(例えば試験片サイズ、ピン間距離、温度勾配、打撃エネルギーなど)を、根拠となるメカニズムを明らかにしたうえで、明確な条件範囲として設定しており、予備知識の無い地域や試験機関でも画一的な評価ができるものである。


図10 アレスト性評価試験方法に関する標準化例

表1に代表的なアレスト性評価法をまとめておく。実際に研究用途で用いられた試験の分類はもっと多くあるが、ここでは、比較的多く用いられているもの、既に標準化されているものをピックアップしてまとめておいた。


表1 アレスト性評価法まとめ(下線は評価法に関する標準化規格が存在するもの)


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