5.3つのタイプの欠陥
図720)はアルミニウム合金(ADC12)を例に、横軸を接合速度、縦軸をツール回転数として、適正接合範囲を示したものである。グラフの傾きは、回転数/接合速度であるから、式(6)に示すように、入熱量に相当する。したがって、傾きの大きい範囲、すなわちY軸に近い高回転数、低接合速度の領域では、入熱過剰となりやすく、傾きの小さい範囲の低回転数、高接合速度の領域では、入熱不足になりやすい。

図7 荷重一定制御の場合の適正接合範囲(ADC12,厚さ4mm)20)
また、荷重一定制御の場合の荷重が大きくなるにつれて、適正条件範囲が大きくなり、荷重も重要な接合条件の一つであることが分かる。しかし、ある程度荷重が大きくなると、欠陥の発生が起こりにくくなり、荷重依存性は小さくなる。例えば、図7における11.8kNと14.2kNではあまり接合適正範囲にほとんど差がない。
図7に示すように、主な欠陥の発生原因をまとめると以下のようになる。
- (1) 入熱過多(バリの発生、表面の荒れ)
- (2) 入熱不足(トンネル状欠陥、溝状欠陥、プローブの欠損)
- (3) 塑性流動異常(トンネル状欠陥)
(1)入熱過多は、試料の温度上昇によって塑性流動がより容易に起こり、バリ等の発生が顕著になる場合である。ツールが裏板に達し、極端な場合には、ツールや裏板が破断することもある。(2)入熱不足の場合には、その入熱不足の度合いによって、いくつかの種類の欠陥が生じる。健全な継手の場合には、当然、外観、透過X線、断面のいずれにおいても欠陥は観察されないが、適正条件からわずかに入熱が不足する場合には、継手の内部にトンネル状の欠陥(Tunnel hole)が形成する。トンネル状の欠陥の場合、外観からは判別することができないので、透過X線等での確認が必要となる。さらに入熱量が不足している場合には、欠陥は外観からも観察される溝状の欠陥(Groove like defect)となり、透過X線等での確認は不要であるが、このような場合には、入熱量が大幅に適正量から不足していると考えるべきである。さらに、入熱量が不足すると、ついにツールが破断することになる。
しかし、図7の右上の領域、高接合速度、高回転数の場合には、トータルの入熱量と直接関連のない欠陥が発生する。これは後述するように、塑性流動の異常により発生する欠陥である。適正領域の右下、すなわち接合速度が大きく、回転数が小さい場合には、ツールの回転数の増加とともに、適正な接合速度も大きくなるので、入熱量と直接関係があると言えるが、適正領域の右上のツールの回転数が大きすぎる場合には、接合速度の増加とともに、適正なツール回転数はむしろ減少する。
図820)に塑性流動異常および入熱不足の場合の接合部の断面写真を、適正条件で接合された場合の結果と合わせて示す。これからわかるように、入熱不足の場合の欠陥と塑性流動異常の場合の欠陥は、欠陥の発生位置がともに前進側(図1参照:溶接方向とツール回転方向が一致する側)で同様であり、非常に区別しにくいと言える。しかし、回転数が小さすぎる(入熱不足)の場合には、攪拌部の形状が適正条件範囲とほぼ等しいのに対し、回転数が大きすぎる(塑性流動異常)の場合には、図8中の矢印で示すように、前進側の試料表面近傍で攪拌の流れがスムースでない領域が存在するのが分かる。このように、回転数が大きすぎる(塑性流動異常)場合には、塑性流動のバランスが悪くなり、欠陥が発生する。これは、材料中の熱の伝達に比べ、回転ツールから材料表面への入熱量が大きくなりすぎ、表面温度のみが上昇するため、局部的に塑性流動が促進されたものと推察されている20)。

図8 塑性流動異常および入熱不足による欠陥20)
図8に示すように、入熱不足によって発生した欠陥は、荷重を増やすにつれてその大きさは小さくなるが、表面の攪拌過剰によって生成する欠陥は、荷重を増やしても、あまりその大きさが変化しないのが特徴である。このように、(2)入熱不足と(3)塑性流動異常の欠陥は一見、区別しにくいが、これらを誤って判断すると、本来回転数を減少させるべき場合に、増加させてしまうなどの間違いを起こしてしまうので、十分な注意が必要である。
尚、摩擦攪拌接合は、一般的な溶接法とは異なり、左右非対称な接合法で、接合方向とツールの回転方向が一致する側と一致しない側が存在する。図1に示すように、ツールの回転方向と接合方向が一致する側を前進側(Advancing side)、反対を向いている側を後退側(Retreating side)と言う1)。一般的には、ツールの移動速度(接合速度)はツールの回転数よりは小さいため、材料の流動は、前進側と後退側でほとんど変わらないが、前進側で流動の淀みが出やすいため21,22)、欠陥ができるのは、一般的に前進側となる。接合中の温度が高いのも前進側だが、欠陥が発生するときなどは、逆に後退側の方の温度が高くなる。








