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サブマージアーク溶接の可視化

2. 実験観察によるサブマージアーク溶接の可視化

2.1 直接観察によるアーク外観や溶滴移行現象の観察

実験観察によってサブマージアーク溶接現象を観る試みは数十年前から行われているが3,4)、現在ほど高フレームレートでの撮影ができなかったため、溶滴移行やスラグの流動などの動的な現象に対する理解が不十分であった。近頃では高速度ビデオカメラの性能向上に伴ってこれらの現象を高解像度、高フレームレートかつ従来よりも長時間の撮影が可能となり、溶滴移行形態やキャビティ内部のスラグの挙動を詳細に観察できるようになった。このようなキャビティ内部の可視化を目的した実験観察として、近年では直接観察やX線透過観察による研究例が報告されている。

図2に直接観察の概略図を示す。これは装置全体を上から見た概略図であり、この手法では母材上のフラックスに筒状やトンネル状のジグを挿入して外部に通ずる空間を設け、その空間越しに高速度ビデオカメラでキャビティ内を観察する。報告によって、ジグの形状や観察方向などに違いがある5-7)。また、主に低温プラズマの基礎と技術応用に関する研究を行っているドイツのLeibniz Institute for Plasma Science and Technology (INP Greifswald)が動画サイトで直接観察結果の動画をアップロードしているので、興味のある読者はこちらも参照されたい8-12)。これらの動画ではキャビティ内部で生じる溶滴移行現象や、キャビティ内を崩れ落ちるフラックスなどのサブマージアーク溶接現象を電流電圧波形と共に見ることができる。


図2 直接観察法の概略図

このような研究報告例の中から、本稿では筆者らの研究グループが行った直接観察の結果13)について述べる。実験には直径4 mmのワイヤを使用し、溶接トーチを30 cm/minで移動させた。また溶接電流は直流600 A(棒プラス)と設定した。この報告では溶接線に対して垂直方向から筒状のジグを挿入し、そのジグ越しにキャビティ内部の様子を高速度ビデオカメラで撮影した。なお、直接観察では筒状やトンネル状のジグを挿入しキャビティを外部へと開放すると、内部のガスが流出して圧力が低下し、キャビティ内の環境が変わってしまう。これを抑えるため、実験中はジグを通して炭酸ガスを導入した。この実験結果の一例を図3に示す。いずれの図においても、キャビティ内部でワイヤ先端に形成された溶滴やその周囲のアークプラズマ、溶融池等が可視化されていることがわかる。特にこのケースでは金属由来の青白いプラズマの周囲にオレンジ色の発光領域が見られる。キャビティ内部のガス組成には一酸化炭素や二酸化炭素が多く含まれていると考えられるが、一般的な炭酸ガスアーク溶接ではこのオレンジ色の発光領域が見えることはない。したがって、この発光はサブマージアーク溶接特有のフラックスやスラグ由来の蒸気から発せられていると考えられる。またアークプラズマと溶滴の位置関係に着目すると、溶滴の下部にアークプラズマが位置していることがわかる。このアークプラズマは炭酸ガスアーク溶接でよく見られるようなグロビュラー移行形態時の状態に近いことから、溶滴下部では電流が集中し、溶滴は電磁気力に起因する上向きの力によって支えられていると考えられる14)。その後溶滴上部は、溶滴に作用する電磁気力によって徐々に細くなってワイヤ先端から千切れ、ワイヤ径よりも小さい溶滴が溶融池へと輸送されるという、一連の溶滴移行現象が観察された。


図3 サブマージアーク溶接中のアーク外観13)

以上に示した直接観察のメリットはカラーカメラと減光フィルタによるキャビティ内部のアーク外観観察や、バンドパスフィルタを用いた溶融金属やフラックス、スラグ挙動の観察など、目的に合った溶接現象の観察を行えるということである。アークプラズマや溶滴移行などのキャビティ内部の様子を高精細に可視化できるということは、キャビティ内部を直接撮影するこの観察手法ならではのメリットである。また、もう一つの観察手法として後述するX線透過観察に比べて比較的手軽に行うことができるということもメリットの一つとして挙げられる。ジグは消耗品ではあるものの筒やトンネルの形状であり、その材質は金属やセラミックス製でできているため、単純で安価に製作できる形状・材質であるといえる。また、キャビティ内部の圧力低下を防止するために外部から導入するガスも炭酸ガスが多く使われており、こちらも安価かつ容易に入手することができる。

一方、この観察手法のデメリットは、直接観察で得られた実験結果の妥当性の確認が必要不可欠ということである。ここで言う妥当性とは直接観察で得られた結果と、ジグを挿入せずに溶接した際にキャビティ内部で生じている溶接現象が同等であるということを指す。なぜこのような確認が必要であるかというと、上述のように直接観察によって観察する際に本来はフラックスやスラグに覆われた閉空間であるはずのキャビティを観察用のジグを挿入して外部に開放したり、キャビティの開放に伴うキャビティ内部の圧力低下を抑えるために外部からガスを導入したりする必要があるためである。これらの直接観察という手法が引き起こす外部からの影響によって、実験条件次第では直接観察中のキャビティ内部の環境が、ジグを挿入しない場合と比べて大きく異なってしまうことも起こり得る。そのため、ジグを通過する前と通過中で電流電圧波形に差がないことを確認したり、次で述べるX線透過観察などの非破壊の実験方法で観察された結果と比較したりするなどして、実験観察結果が実施工中にキャビティ内部で起きている現象と同等なものであるかどうかを確かめながら観察する必要がある。


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