2.2 X線透過観察
図4にX線透過観察の概略図を示す。これも装置全体を上から見た概略図であり、この観察手法では溶接装置の他にX線源とインテンシファイアを取り付けた高速度ビデオカメラを用いて行われる。この観察は、レントゲン写真を撮るときのように溶接部にX線を照射し、透過する物体の密度の違いによってX線の減衰が異なることを利用して溶接部を可視化する手法である。溶接部を透過したX線は私達の目には見えないが、インテンシファイアによってX線の強弱が画像の濃淡として表れ、それを高速度ビデオカメラによって記録することで私達の目に見えるようになる。X線透過観察は先程の直接観察とは異なり、キャビティ外の広い領域を可視化できること、そして溶接現象に干渉しない非破壊の観察手法であることなどが特長である。反対に、アークプラズマとその他のガス領域では画像の濃淡の差が小さく両者を区別できないこと、透過できる板厚に限界があるために、溶接法によっては母材内部を可視化する際は実施工と同じ条件での溶接が難しい場合があること、そして何より高価な設備や強力なX線を必要とするために実施できる機関が限られることなどが、この観察手法のデメリットとして挙げられる。

図4 X線透過観察の概略図
筆者らの研究グループが行ったX線透過観察結果13)を図5に示す。このX線透過観察は大阪大学接合科学研究所所有の設備を利用して行った。この観察も溶接線に対して垂直方向から撮影している。溶接条件については、筆者らが行った前述の直接観察と同じである。X線透過観察では、画像中の濃淡の違いによってワイヤ、フラックス、キャビティ、母材(溶融池)、スラグを判別することができる。図中の黄色の矢印は各時刻におけるスラグの移動方向を示しており、白の破線はスラグの表面を表している。図では母材に傾斜があるように見えるが、実際は水平に設置している。このように見えてしまう理由は、インテンシファイア内の電子が溶接によって発生する磁場の影響を受け、映像が曲がってしまうためである。

図5 X線透過観察によるサブマージアーク溶接現象の観察13)
まずスラグに注目して見ると、溶融スラグがキャビティ内部で溶接方向に前後に大きく流動していることがわかる。これは溶融スラグがアークプラズマに近づくことによって溶融スラグ表面の温度が上昇して気化し、この気化に伴う体積膨張によって残りの溶融スラグが熱源後方に押し戻されるためであると考えられる。そして熱源後方ではスラグは再凝固しているため、押し戻された溶融スラグはやがて減速して再び溶接方向前方へと流動する。その結果、溶融スラグはキャビティ内部で波打ちのような挙動を示し、この波打ちを繰り返しながら溶接が行われていた。この波打ちの過程でスラグ内部では“巣”のような空孔が生じることもある。
次に、電極であるワイヤ近辺に注目する。図6にワイヤ先端で形成された溶滴が離脱するまでの一連の過程を示す。図中ではワイヤ先端と母材表面が繋がっていることがあり、一見短絡しているように見える。しかしながら同時に測定していた電圧波形では短絡が確認されなかったことから、これはワイヤ直下の溶融池がアーク圧力によって大きく凹み、アークプラズマが母材表面よりも低い位置で維持されている埋もれアーク状態であると考えられる。その後ワイヤ先端に形成された溶滴は、直接観察の実験結果と同様に溶滴の上部が細くなることでワイヤ先端から離脱し、溶融池へと輸送された。このように直接観察と同様の溶滴移行を示したことから、前述した直接観察の結果は妥当であると考えられ、このX線透過観察中においてもアークプラズマは溶滴の下部で維持されていたと考えられる。

図6 X線透過観察によるサブマージアーク溶接中の溶滴移行現象の観察13)
以上に示した実験観察はアークプラズマ挙動や溶滴移行現象、スラグの流動などの可視化を行うことができ、設定した溶接条件に対するサブマージアーク溶接現象の振舞いを明らかにした。しかしながら、物体の表面しか観察できない直接観察や、X線が透過できる幅に上限があるX線透過観察では明らかにできない溶接現象も多く残されている(例えば、溶接中の熱輸送過程や溶融池内部の温度場や速度場など)。これらを明らかにするため、数値シミュレーションによるサブマージアーク溶接現象の解明が求められている。








