3.シミュレーションによるサブマージアーク溶接現象の可視化
ここではシミュレーションによるサブマージアーク溶接の可視化について、先行研究例をいくつか紹介する。例えばChoらは熱源とともに円筒型の壁面を移動し、溶滴をこの壁面に衝突させてから溶融池へと輸送することで、サブマージアーク溶接特有の溶滴移行形態である壁面移行形態を模擬して溶融池形成過程をシミュレートした15)。この報告では熱源は実験観察結果から得ており、フラックスから露出させたサブマージアークをCCDカメラで撮影し、画像の輝度値から温度に変換する手法を用いてアークプラズマの温度分布を得ている。Choらは構築した計算モデルに直流電流や交流電流を想定した溶接条件を適用してシミュレーションを行っており、溶融池内部の流れ場を可視化するとともに実験ともよく一致する溶込みを得られている。また筆者らはフラックスやスラグを固体と取り扱ってアークプラズマのシミュレーションを行い、同じ溶接条件のガスメタルアーク溶接の計算結果とエネルギーバランスを比較した16)。このシミュレーション結果から、サブマージアーク溶接ではアークプラズマからの放射エネルギーがフラックスやスラグに熱エネルギーとして一旦入熱し、熱源通過後にフラックスやスラグから母材へとその熱が伝わることで、高い熱効率を得られていることを示唆している。
本節ではサブマージアーク溶接現象のシミュレーション例として筆者らの報告17)の一部を示す。この報告では、連続体である流体を粒子の集合体で表現する粒子法によって溶融金属の挙動を、粒子で粉体を表現する離散要素法によってフラックスやスラグの挙動をモデル化している。また計算の対象としているのは実施工で用いられるような大電流の溶接ではなく、ラボスケールのビードオンプレート溶接であり、その溶接電流は250 Aと設定している。母材やフラックスを溶融させるために必要な熱源であるアークプラズマの温度分布などについては、先ほど紹介した二次元軸対称を仮定した計算結果16)を用いた。動画1はシミュレーション結果の一例であり、溶接線に沿った縦断面を示している。また粒子の色はその粒子が何であるかを示している。薄灰色がフラックスを保持する壁や母材、ワイヤであり、濃灰色が溶接金属、赤色が溶滴、黄色が粉体のフラックスで茶色がスラグである。この計算ではアークプラズマからフラックスやスラグへの入熱として、熱伝達や輻射を考慮している。そしてワイヤ先端にはキャビティを半楕円球状に形成しており、キャビティ表面に位置するフラックスやスラグに圧力を与えることでその形状を保持している。
(図をクリックすると動画が再生します)
動画1 熱源の通過による溶融池およびスラグの形成過程17)
計算結果を見るとワイヤが粉体フラックスを掻き分けながら溶接方向に進行する様子や、フラックスが溶融してスラグになり、溶接ビード表面を覆っていく様子が溶接ビードの形成と共にシミュレートされている。形成されたスラグは図7に示すように溶融池表面を全体的に覆うような形状であり、実験と同様の傾向が再現されている。そしてスラグは中央が厚く、端になるほど薄くなっている。これも実際のサブマージアーク溶接で得られるスラグにしばしば見られる形状である。この計算結果をもとに、溶融池内部の流動を可視化した。動画2は溶接線に沿った縦断面における溶融池の速度場である。濃灰色の領域は母材を表しており、溶融池や溶滴を構成する溶融金属部が青から赤で色づけられている。この溶融金属の色はその地点におけるxy方向の速度の絶対値を、矢印はその点における流れの向きを示している。また黒の一点鎖線は熱源の中心位置を示しており、座標系はこの熱源中心を中心軸とした相対座標系に置き直されている。なお、動画は溶滴が溶融池へと輸送される直前から開始している。

図7 溶接ビード上に形成されたスラグの断面
(図をクリックすると動画が再生します)
動画2 溶融池内部の速度分布17)
溶融池を構成する溶融金属は、流体の運動方程式であるNavier-Stokes方程式に従って運動しており、このシミュレーションでは一般的なNavier-Stokes方程式に含まれる圧力勾配や粘性力の他、表面張力や重力、電磁気力やアーク圧力などの外力を考慮している。そして、これらが複雑に作用することによって溶融池内部の速度が決定される。電磁気力やアーク圧力は熱源付近でその影響が大きくなるため、溶融池後方よりも熱源中心近傍のほうが溶融金属の速度は大きくなっている。動画2より、溶滴の輸送によって熱源近傍で溶融金属の速度が時々刻々と変化している様子が可視化されている。また溶融池に溶滴が輸送された直後には、溶融池の底部付近が広く赤く色づいていることから、溶滴移行によって溶滴の持つ運動量が溶融池の底部まで輸送されていることがわかる。このとき溶滴の持つ熱量も溶融池底部まで輸送されることで、サブマージアーク溶接は深い溶込みを得ることができると考えられる。そしてさらに時間が経過すると、熱源付近の溶融池の形状はもとに戻り、次の溶滴が輸送される。このように、シミュレーションは実験観察では観ることが難しい溶融池内部等の現象を可視化することが可能であり、ここで示したような溶滴が溶込み形状に及ぼす影響など、私達が溶接現象を理解する上で必要となる新たな知見をもたらすことができる。
以上に示したような計算例はあるものの、サブマージアーク溶接現象を対象とした研究はその現象の難しさから他のアーク溶接プロセスに比べて少ない。また、筆者らの報告も含めたサブマージアーク溶接の先行研究例には計算上無視したり、モデル化して簡略化したりした現象が多く含まれている。そのため、シミュレートできている現象は全体の一部にとどまり、サブマージアーク溶接現象全体を再現・予測できるような数値計算モデルの開発にはまだまだ時間がかかる。サブマージアーク溶接のシミュレーションを行う際にはこの溶接の特徴であるフラックスとスラグをどうモデル化するかが重要であり、今後さらなる計算技術の発展が望まれる。










