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エレクトロスラグ溶接の観える化

3. 実験結果

表1に実験条件をまとめる。また、実験にて使用したフラックスの成分を表2に示す。実験時の外観は図4のようになっており、この赤熱している溶融部の様子をカメラにより観察した。


表1 実験条件


表2 フラックスの成分(mass%)


図4 実験の外観

産業用カラーカメラ(acA2040-90uc, Basler社製)を用いて溶融部近傍を観察した結果が動画1である。この動画の撮影時のフレームレートは30 fps(コマ/秒)であり、再生レートも30 fpsである。


動画1 産業用カメラで観るエレクトロスラグ溶接における溶融部の挙動
(図をクリックすると動画が再生します)

動画観察の結果よりエレクトロスラグ溶接における溶融部の構造や挙動は図5に示されるように特徴づけられる。まず、溶接ワイヤは溶融部の中ほどまで挿入されている(図中①)。母材と溶融部の境界の形状に注目すると、溶融部の中ほどより下方で母材の溶融が開始している(図中②)。溶融部内部の構造に注目すると、溶融スラグと溶融金属の境界がみられ、上方は溶融スラグ、下方は溶融金属で構成されている。この境界の中心(ワイヤの直下)は大きくへこんだ形状を呈している(図中③)。また、動画観察の結果から、溶融部の流動についても推測することができる。まず、溶融スラグ領域の流動は、ワイヤ先端近傍より下方へと流れが生じており、溶融金属の界面においてその向きを変え、側方へと向かう(図中④)。この溶融スラグ領域の流れは、ワイヤ先端近傍に集中していると考えられる電流によって誘起される電磁気力によるものと考えられる。一方で、溶融金属領域における流動は、ワイヤ直下である溶融部中央から側方へと向かうものとなっている(図中⑤)。この溶融金属領域における流れは、溶融スラグとの界面における溶融スラグの流動におけるせん断力によるものと考えられる。これらの溶融スラグ、溶融金属の側方に向かう流れは溶融部で発生したエネルギーを母材表面近傍へと輸送する一因、すなわち母材を溶融させ溶込みを形成する一因子となっていると考えられる。特に、溶融部の最も深い領域は、溶融金属で満たされているように観察され、このことから、エレクトロスラグ溶接において母材側方の溶込み深さを決めるキーポイントとなるのは、溶融金属の挙動と推測することができる(図中⑥)。このように、著者らは耐熱ガラスの観察窓越しではあるが、エレクトロスラグ溶接中の溶融部挙動を世界で初めて「観る」ことを達成した。


図5 エレクトロスラグ溶接における溶融部構造とその挙動

つづいて、高速度カメラ(MEMRECAM Q1v,ナックイメージテクノロジー社製)を用いて、溶融部近傍を観察した結果を動画2に示す。ここでは、撮影時のフレームレートは500 fpsとしており、再生レートは30 fpsである。


動画2 高速度カメラで観るエレクトロスラグ溶接における溶融部の挙動
(図をクリックすると動画が再生します)

高速度カメラを用いることで、より時間スケールの短いエレクトロスラグ溶接における溶滴移行現象を「観る」ことができた。溶融部内部においてワイヤは溶融し、先端部近傍では細かく揺動しているように観察され、動画2よりスナップショットを抽出したものを図6に示すが、この図に示されるように、時折大きく波打つように左右に揺れる様子が見られた。このように、エレクトロスラグ溶接における溶滴移行形態は、ガスメタルアーク溶接でいうところのスプレー移行あるいはローテーティング移行となっているものと推測することができる。今回行った実験では、電流値を210Aとしており、ガスメタルアーク溶接において、スプレー移行あるいはローテーティング移行がみられる電流値に比べると、かなり小さいものである。


図6 エレクトロスラグ溶接における溶滴移行現象


(WE-COM会員のみ)